柳東烈(治安政策研究所安保対策室先任研究官)
多極化に万全の備えを…放置できない内外の蠢動
国家安保はその国の運命を左右する。特に、分断状況下にあって虎視耽々と武力挑発を狙う北韓の好戦的志向を勘案するとき、大韓民国における安保の重要性は言うまでもない。
世界に類なき複雑なからみ
しかし、韓国の安保戦線は全世界的に類例のない5個戦線にまたがり、かつ複雑に絡まっている。その実情を正確に把握しておく必要がある。
まず第1戦線は、前方戦線で南北が対峙している155マイルの休戦ライン(陸上境界線)と海上境界線および空中境界線だ。昨年、天安艦爆沈事件と延坪島砲撃挑発事件は第1戦線をまともに守ることができず、発生を許したものだ。第1戦線は国家安保にあって、いくら強調しても足りない重要な戦線だ。
第2戦線は、私たちの内部、すなわち後方に形成されている戦線だ。以前、第2戦線はパルチザンや北韓が直接浸透させた武装ゲリラなどが形成したが、今は私たちの内部で国家アイデンティティを否定し、北韓との連係のもとに韓国の体制を蝕む主体思想派など、従北左翼勢力がネットワークなどで強力に形成している。
代表的な例としては、北韓の魚雷攻撃による天安艦爆沈事件に対し、各種疑惑を提示して北韓政権に免罪符を与えようとした集団がそれだ。
これらは韓国国民として様々な恩恵を全て享受しながらも核問題、人権など各種安保事案に対して、金正日政権の立場を徹底的に擁護・代弁し、「駐韓米軍撤収」「国家保安法撤廃」「連邦制統一」など、北韓の対南赤化路線を誠実に遂行してきた勢力だ。
民主的な人士装う振る舞い
問題は、これらが私たちの社会の各界各層で平和勢力、進歩人士などを装い、良心的で民主的な人士であるかのように振る舞っているという点だ。
「内部の敵」が蠢動する第2戦線に対する総体的な点検と対策作りなしに、確固たる安保態勢を確立するということは空しいこだまに過ぎない。
第3戦線は、海外に形成されている従北韓・反韓戦線だ。北韓はいち早く、海外を「朝鮮革命の3戦線」と見なし、国際社会で韓国政府を孤立させ、北韓路線を擁護・代弁・宣伝する海外工作に力を注いできた。日本の総連、第2の総連と呼ばれる米国の「在米同胞全国連合」、中国の「在中朝鮮人総協会」、欧州の「韓民族ヨーロッパ連帯」などがそれをよく代弁している。
2012年大統領選挙で300万人の在外国民が投票権を行使する状況を考慮する時、第3戦線の重要性を決して看過できないだろう。
第4戦線は、21世紀の安保領域に新しく登場したサイバー戦線だ。2009年の7・7サイバー大乱と2011年の農協コンピュータ・ネットワークの麻痺事態などを体験し、私たちはサイバー戦線の重要性を実感した。
北韓は「情報の海」と呼ばれるインターネット空間を「南朝鮮革命の解放区」と見立て、サイバー宣伝扇動、情報収集ハッキング、サイバーテロ、サイバースパイ交信などを繰り返してきた。今この時間にも北韓のサイバー戦士らが平壌および海外拠点で多様な類型のサイバー安保破壊活動を展開している。
政府に浸透し賠黒戦線形成
第5戦線は、韓国政府の主要部署にひそかに浸透した勢力が形成した暗黒戦線だ。かつて国際諜報史で「第5列」と呼ばれる第5戦線の活躍像を想起する時、これに対する安保的対応は非常に重要だ。
いわゆる第5戦線に浸透した勢力は、過去の左派政府時代に強大な勢力を形成し、主要国家機関に集中布陣されているものと推定される。最近、軍将校が金正日に忠誠を誓う文をインターネット上に掲載したという報道。2010年、現役陸軍少将の軍事機密漏洩事件、予備役空軍少将の軍事機密漏洩事件。2009年、憲法機関である「平統(民主平和統一諮問会議)」諮問委員のスパイ事件。2008年、ロウソク乱動事態時に、不法デモ用品を運んだ某政府委員会公務員。各種安保事件に対する司法府の令状棄却や不当な判決。これらは、いわゆる「第5列」の蠢動を連想させずにはおかない。
このように、安保戦線が複雑に多極化している状況で、これらを総体的に考慮しない安保態勢の点検は気休めに過ぎない。6月の「護国報勲の月」に際し、大韓民国の安保戦線を守るために、5個安保戦線に対する関心と警戒意識を育成しなければならない。
(2011.6.22 民団新聞)