掲載日 : [2003-07-30] 照会数 : 4259
やはりそれではいけない 荻原遼(作家)(03.7.30)
ワシントン周辺には10万人のコリアンが住んでいるため、韓国食品を中心に日本、中国、ベトナムの食品も豊富なコリアンスーパーがあります。 ある日、その一角の小さな韓食堂でビビンパを食べている時、珍しく白人の80近い男が隣のテーブルで鍋物を食べ始めました。目が合ったので聞いてみました。
「コリアン・フードは好きですか」
「私は北朝鮮に行ったことがあるんだ」
「観光ですか」
「朝鮮戦争だよ」
往年の米兵だったのか。 「チャレンジ・レイク(長津湖)の戦闘ではかろうじて生きのびた。だからいまここにいるのだ」
1950年11月、中国軍12万人に包囲され壊滅的な損害をこうむった米陸軍戦史でも最悪の敗北の一つです。
私が北朝鮮の研究をしていることを知ると、「時間の浪費だ。やめなさい。」
(…といわれても)と思ったが、この老人と論争しても始まらない。
朝鮮戦争は50年たつのに終結しないのはなぜか?それどころか日ごとにキナ臭くなる…。それだけではない。同じ民族同士なぜ行き来できないのか。なぜひとつになれないのか。何百万人もの餓死がなぜおきるのか。
素朴な疑問が解けないまま多くの人が苦しみ、死んでいます。
そんなことはプラトンや親鸞のような偉い人にまかせて、凡人は日々のなりわいを考えておればよい…という意見もあるでしょう。
しかし…と私は思う。それではいけない。
夕べビデオでみた韓国映画「二重スパイ」の悲劇的なラストの強い印象のせいでしょうか。
(2003.7.30 民団新聞)