掲載日 : [2003-09-03] 照会数 : 7645
総連の抗議に対する民団の見解(全文)(03.9.3)
■□
緊張感高める北韓核開発…日本人拉致は犯罪行為
………………………………………………
総連の抗議に対する民団の見解(全文)
………………………………………………
在日本朝鮮人総聯合会 中央本部貴中
貴団体の韓正治国際統一局局長をはじめとする代表6名が8月21日、本団中央本部を訪ね河政男組織局長に口頭で行った抗議について、また貴団体機関紙「朝鮮新報」に掲載された関連記事(2003年8月25日付)について、本団は以下の通り見解を表明する。
1、貴団体の抗議に対する本団の基本認識
貴団体は本団主催の第58周年光復節中央記念式典において本団中央団長が行った慶祝辞と決議文に対し、「共和国を強く誹謗し、総連に難くせをつけ」「共和国の最高領導者の権威を損ね」た内容であるとしたうえで、このような「反民族的、反同胞的な姿勢」は「直ちに是正」しなければならず、「《慶祝辞》のなかでわれわれを貶めたことに対し謝罪し、《決議文》などというものを直ちに撤回」しなければならないとしている。
貴団体が抗議の対象とした慶祝辞と決議文は、昨今、南北韓のみならず世界が注目している北韓の核開発問題、日本人拉致問題、元在日同胞脱北者問題について、在日同胞を真に代表する組織である民団としての基本的な立場を表明したものである。
本団は同胞社会の和合を目指し91年以後、中央・地方を問わず一貫して貴団体との交流を提議してきた。特に6・15共同宣言以後、中央本部間では貴団体の消極的な対応によって実を結んでいないが、本団の熱心な呼びかけによって、地方本部・支部単位では組織的な交流が数多く実施され、同胞社会の和合に向けた動きが地道に積み重ねられている。特に総連同胞の韓国訪問の際には同じ在日同胞の立場から本団は側面的な支援を積極的に行ってきた。
このような中、貴団体の今般の抗議活動は、本団に対する挑発的、攻撃的な言動をふんだんに使うことによって、本団との距離を意図的に置こうとしているとしか思えない内容であり、地方組織と同胞が取り組んでいる同胞社会の和合への努力に水を注そうとするものであり、甚だ遺憾であると言わざるを得ない。
同じ歴史的背景と未来をも共にするであろう在日同胞の立場から、本団は貴団体に対し改めて慶祝辞にあるように北韓の核開発の阻止のために全同胞的な反核運動に決起すること、拉致問題の本質を内外に明らかにし一日も早い問題解決のために先頭にたつこと、在日同胞の脱北者問題に対し政治的、道義的な責任を果たすことを強く訴えるものである。
2、北韓の核開発に対する本団の見解
貴団体は本団に対する抗議の中で、民団中央が「東北アジアを緊張に追い込んでいる根本原因を完全に取り違えている」とし、今日の危機は「核の脅威を加えている米国ブッシュ政権が造りだした」ものであると言う。なおも、わが民族の平和が北韓の「軍事的抑止力によって担保されている」と荒唐無稽な論理を立て、北韓に「自衛的な力がなければとうに朝鮮の地は火の海と化していただろう」と、理不尽な言辞を弄しながら北韓の核開発を正当化しようとしている。
北韓の核開発は、92年に南北間で調印・批准した「韓半島非核化共同宣言」に反するだけでなく、朝米間で94年になされた「枠組み合意」にも反し、6・15共同宣言の基本的な約束にも反するものである。
北韓は民族同士の誓約も国際的な取り決めをも反故にし、いわんや南北の最高指導者同士が約束をした後も核開発を継続していた事実からして、緊張を高める原因を作っているのはまさに北韓自身であることを認識すべきであり、他者に責任を転嫁すべきではない。
北韓が今でも核開発を放棄するなら、国際社会は経済支援をはじめとし、国際社会の一員として正当な扱いをする用意があると言明している。わが韓半島においてはいかなる形であれ軍事的な緊張が高まってはならないというのが、国内外を問わず全同胞の切なる願いである。
なおも核開発に固執する北韓に対し、貴団体こそが今こそ声をあげるべきだと期待されている。
3、日本人拉致問題に対する本団の見解
貴団体は抗議の中で日本人拉致問題に言及し、「840万人の朝鮮人拉致、強制連行、従軍慰安婦」云々と問題の本質をすり替えるだけでなく、根拠の乏しい数字を持ち出し自らの言動の正当性を主張しようとしているが、本団は貴団体の率直な反省の一言半句もないことに、改めて失望せざるを得ない。
貴団体は拉致問題についてこの間、その存在を一貫して否定してきただけでなく、日本当局の陰謀だとまで言ってきたものだが、昨年9月、金正日国防委員長が「対南革命のため日本人を拉致した」と事実を認め謝罪したことによって、貴団体の主張が誤りであったことが白日の下に晒された。
韓国に対する「革命のため」だったとは言え、拉致行為は明らかに理不尽な犯罪行為である。いかなる名目であろうが北韓という国家が他の主権国家の国民である日本人を拉致したという事実は、明白に日本に対する主権侵害であり、当の拉致被害者に対する人権蹂躙であり、言い訳の余地のない国家的犯罪行為だということを肝に銘ずるべきである。
これを「植民地時代の強制連行も拉致だ」などと、次元の違う問題を持ち出して論理を摩り替えようとすべきではない。拉致問題という犯罪行為を強制連行という全民族が受けた受難と同列に置き帳消しにしようとするものであり、恥ずべき行為といわざるを得ない。
在日同胞全体に大きな影響を与えている拉致問題について、貴団体はこれ以上の事実歪曲をやめると同時に態度を明確にし、北韓政府と日本政府に対し早期の解決を働きかけるべきである。
4、元在日同胞の脱北者に対する本団の見解
貴団体は抗議の中で元在日同胞脱北者にふれ、「共和国で罪を犯したり」「反共和国、反総連騒動の手先に成り下がった者」と、事実とまったく相容れない表現で口を極めて彼らを非難している。良心的な総連同胞たちはこの言葉をどう受け止めるだろうか。本団は、この言葉が貴団体の本心ではないことを願うばかりだ。
元在日同胞らは、北韓での長年にわたる「帰国同胞」に対する抑圧に我慢に我慢を重ねたあげく、極悪な食糧事情に耐え切れず止むにやまれず命をかけて脱北の道を選んだ人たちである。その彼らに対し慰めの言葉どころか、口汚く罵る貴団体の真意がどこにあるのか、すべての在日同胞は理解に苦しむところであろう。
《地上の楽園》と甘い言葉で彼らを「帰国」の道に追いやったのは一体どこの誰なのか。9万3000人以上もの無垢な同胞を虚言に乗せて北韓に行かせた実質的な責任主体はどこだったのか。まさに貴団体、総連ではなかったのか。
命からがら北韓を脱出し日本に辿り着いた元在日同胞らは、日本社会に定着するため必死に努力しているのだ。彼らに対し、同じ歴史的背景を持ち一時期とは言え日本社会で生活をともにした同胞として、本団は人道的な立場から支援していくことを明らかにしている。
貴団体の立場からすれば彼らを支援するのは当然のことと思われるが、どうだろうか。元在日同胞の脱北者は今後ますます増えるものと予想されるが、彼らを北韓の地に送り込んだ責任を今一度じっくりと噛みしめ、同胞の生命と安全を守るべき立場から、本団とともに支援に立ち上がることを切に訴えるものである。
5、最後に
本団は、韓半島の真の平和と安定、そして南北の和合と協力を通じての互いの発展、その上での平和的な統一をすべての在日同胞とともに願っている。
日本社会のいわゆる「右傾化」と排外主義的な風潮は、在日同胞の生存条件を大きく脅かしている。これに口実を与えているのが北韓の核開発であり、拉致問題であるというのは衆目の一致するところである。
貴団体は厳然たる事実を直視し、真に民族的、全在日同胞的な立場に立ち返り、本団の光復節慶祝辞における呼びかけに真摯に応えるべきである。
2003年9月2日
在日本大韓民国民団中央本部
(2003.09.03 民団新聞)