素粒子の存在追い続け
すべての物質は原子で構成される。原子の中心部にある原子核は、プラス電気の陽子と電気を有しない中性子、その周りをマイナス電気の電子が取り囲んでいる。陽子や中性子はさらに小さい素粒子(クオーク)からなる。物質の最小単位である素粒子の存在を探求し続けてきた。
「宇宙世界の根源はなにか。世界の科学者たちの探究心は尽きない。水素原子核がクオーク3個から構成されるなど、少しずつ物質の本質がわかりかけてきた」
小学生時代、本好きでとくに科学漫画に夢中になった。それが高じて中学生になると、数学と物理が好きになり、「将来は物理学者になりたい」と考え始めた。
最大の加速器で
東京大学理学部から同大大学院に進んだ。博士論文のテーマは「K+中間子・中性子弾性散乱の偏極パラメータの測定」。筑波大学に設置された高エネルギー加速器の研究所に通い、素粒子の衝突によって生じる新たな素粒子を測定した。
大学院修了後、ポスドク(博士研究員)として筑波大学に勤務。翌81年から、米国シカゴのフェルミ国立加速器研究所における日米伊共同研究に参加した。直径2㌔の加速器で、最高エネルギーの素粒子実験だった。
「日本グループは10人余でスタート。最初の1年半は常駐し、いったん戻ってからは毎年、日米間を半年ずつ往来する生活の繰り返しだった」。7年間の準備を経て、88年から正式な実験が始まる。韓国を含め世界30カ国から研究者が共同で携わった。
多くの成果をあげる中で、「忘れられないのが、94年のトップクオークと98年のBc中間子の発見。基本粒子クオークは6種類あり、唯一未確認だったトップクオークを見つけ、標準理論を裏づけた」。
長年追求し続けた末の発見こそ、「苦労が報われた瞬間であり、どんな喜びにもかえがたい」。
Bc中間子の発見により、2000年に大韓民国学術院賞を受賞した。08年までの9年間は、日本研究グループの代表を務めた。
10年、スイス・ジュネーブCERN研究所で直径8㌔の加速器による実験が本格化した。フェルミ研究所の4倍規模の大きさだ。
フェルミ研究所での実験は11年に終了し、世界の研究者はCERN研究所に移った。
現在の研究は、「陽子と陽子の衝突実験(ATLAS実験)で宇宙を支配する物理法則の解明を進めると同時に、宇宙背景ニュートリノ崩壊を探索する実験を推進中だ」。日本国内の大学やソウル大などの研究者らが参加する共同研究の代表を務める。
留学で思考に幅
さまざまな国の研究者と交流してきた。「最初の1年半の米国生活で物の見方が変わった。世界最先端の研究現場では、国や民族を超えた付き合いになる。在日韓国人には若い時に留学することを勧めたい。きっと自由な思考ができるようになる」と強調する。
水泳やゴルフで体を鍛える。
▽連載にあたり在日韓国科学技術者協会(洪政國会長、03・3437・2774)の協力を得ました。
(2014.6.11 民団新聞)