掲載日 : [2003-10-16] 照会数 : 3942
中朝国境で会った「地の塩」 荻原遼(ジャーナリスト)
「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」の山田文明代表が中国で拘束されたとのニュースに、アメリカでの取材を中断して一時帰国しました。
8月28日、釈放されて成田空港、山田さんの元気な姿も嬉しかったですが、もっと嬉しかったのは山田さんの奥さんの頼もしい姿。記者会見も終え、最終の新幹線に乗るため空港から東京駅まで車を飛ばしている中で、奥さんは山田さんにこう言いました。
「中国の留置所で1年分ぐらいしっかり休んだやろから、これからももっとがんばりなさい」 奥さんはお医者さんで、大阪・河内の女赤ひげ先生。
この言葉に安心して私はかねての計画どおり中朝国境の取材に出かけました。いま書いている300万人餓死殺人説の立証のためです。
延辺(中国吉林省にある朝鮮族自治州。昔の間島)で、魅力的な男性を紹介されました。40歳ぐらいの中国国籍の朝鮮族。中国、北朝鮮、韓国を股にかけて貿易や経済交流を進めている人ですが、その裏でひそかに北朝鮮からの脱北者の手引きをしているのです。北で写してきたビデオをみて驚嘆。ある麻薬工場の製品もありました。北の内部に深くくいこんでいるのです。
実はこの人、山田さんの拘束が長引いているのを知って、自分のコネを動かそうと上海まで行ったんですよ、と紹介者が私にそっと教えてくれました。
その時ふと私の頭に「地の塩」という聖書の言葉が浮かびました。世の腐敗を防ぐためになくてはならない物。
しかし、地の底にあって、その存在は誰も知らない。
(2003.10.15 民団新聞)