掲載日 : [2003-12-10] 照会数 : 3940
イラク派遣と民族帰属意識 石高健次(朝日放送報道プロデューサー)
自衛隊のイラク派遣問題が、2人の外交官殺害がきっかけでさらに揺れている。政府は「危ない所ではないから行け」という。もともと〞軍隊〟(自衛隊)とは何らかの危険があるからこそ送られるべき性格のものなのに、問題の出発点からごまかしがあった。
なぜ政府は「危ないけど、行ってくれ」と言い切れないのか。アメリカが始めたイラク戦争の大義に対する疑問が国民に広がっていることだけではないだろう。
根底には今の日本において、個人の民族や国家への帰属意識が希薄なことがあるのだと思う。
太平洋戦争中、日本の若者は、滅私奉公、忠君愛国と教育され、国家のためには自己の犠牲もやむを得ないと考えて戦闘地域に赴いた。今思えば、とんでもない世界観に一丸となっていた。
戦後、その反省から「個の尊重」が教育の基本におかれ、自由と民主主義が旗印とされた。
それから半世紀、平等主義のもとで個を尊重するあまりなのか、個人を物心両面で支えるべき家族や地域社会の機能は〃崩壊寸前〃になった。当然のこととして、民族や国家への帰属意識が希薄になる。「人間の尊厳」意識がすたれ社会の随所でモラルハザードが起きているのも根は同じだろう。そもそも国家とは国防とは、と考えること自体が戦後、タブーとされてきたのだ。結果、他人のことより自分を守るのに精一杯の世の中に…。
そんな中で、自衛官個人が、内に「誰(何)のために危険な目にあうのか」という自覚がなく、外には国民共通の理解と認識もないまま、派遣されるとすれば国全体にとっての不幸だと思う。
(2003.12.10 民団新聞)