掲載日 : [2004-02-04] 照会数 : 4046
ありふれたおはなし 前田憲二(映画監督)
プロデューサーの李義則氏と二人して、映像ハヌルの事務所から程近い飲み屋に行った。カウンターに割り込み、馬刺をつまみに焼酎のお湯割りをひっかける。
若い美女が隣りに一人、熱燗をお代わりしている。ママが突然、「監督!Aさんはね、東大の大学院を出て、いま翻訳の仕事をやってるの」と紹介する。「おいくつ」とボク。「亥なの」と彼女。「猪突のブタね!ボクもブタだヨ!」。
猪はブタ?か。なるほどと、彼女は納得。中国や韓国では、イノシシではなく、豚と言うんだ。 咄嗟にママが、韓国にも干支があるの!ときた。拳を振り上げ、殴る真似をすると、ママは舌を出し、顔色を変えた。日本人の韓国に対する知識はその程度だ。ウマ、ウシ、サル、そしてついに言ってしまった。奈良時代の天武期に、馬、犬、駱駝が新羅から献上されたと日本書紀に記されているヨ…。
「Aさん、韓国へ行ったことある?」「ハイ、一度だけ。そのとき感動しました。チゲとかの食文化に」
横からママが、「焼肉じゃないの?」。ボクは言った。「韓国の焼肉文化はまだ浅いんだ。大阪の在日の方が古いかもわからないヨ。20数回、ソウルへ焼肉食いに行くボクの知人はね、ソウルだけで釜山へも行ったことがないんだ」。Aさん戸惑いながら、「何か変な目的あるのかしら…」。 李氏は別れ際、「Aさん今度またこの店で賑やかにやりましょうよ!」。ボクは「密かにやりましょう」と席を立つ。背では拉致問題、イラク支援の話を酔漢らがガヤガヤやっている。韓日文化交流を本気でやらねば…。
(2004.2.4 民団新聞)