掲載日 : [2004-04-14] 照会数 : 4211
在日画伯の英知と誇り 前田憲二(映画監督)
私が敬愛する画家の一人に呉炳学画伯がいる。今年傘寿を迎えられ、ますます精力的に土俗的なタルチュムや友人たちの肖像画を描かれている。
ピカソやゴッホほど有名ではないのだけれど、東京芸大を中退され、セザンヌに魅了され、李朝の白磁に心を奪われ、いま、タルチュムの〞風の舞い〟の虜になっている。
在日のなかにも、私が尊敬する学者、経済人、小説家、市民運動家、焼肉屋のハルモ二など立派な人々は沢山いるのだけれど、呉炳学画伯の存在は、在日の知恵と、理想の高さを見事に証明していると思う。
日本は仮の住まいで、その土壌に魂が溶解するのではなく、朝鮮民族の血の誇りと、何かしら民
族を超えた、人間の尊厳、または国家というものの幻影、そんなない交ぜになった現実に身を晒し、ただ執拗に描き続けられている。
アトリエには、セザンヌが描いたプロヴァンスのヴィクトール山や家並み、それに視点を合わせた呉画伯の南フランスの風景や静物。また白磁の壺や、人物画などが精彩を放ち鼓動している。
私は昨年十月から画伯をカメラで追いつづけ、肉迫したり、距離をおいて撮影をしたりし、今年中には作品を完成させたいと考えている。
韓国、北朝鮮、そして在日の人々と日本人が共に手を結び「呉炳学美術館」を日本の地に一刻も早くつくりたいものだ。ビデオ作品が完成すれば、私は世界中の美術館百カ所を厳選して、呉炳学画伯の「ひとと作品」(仮題)を寄贈することにしている。何故なら画伯の絵画には、「在日」の英知と誇り、そして炎が立ち上がっているからだ。
(2004.4.14 民団新聞)