掲載日 : [2004-09-01] 照会数 : 8946
不当な政治的採択 「つくる会」歴史教科書問題(04.8.30)
[ 「つくる会」教科書採択に抗議の会見 ]
抗議、20団体から相次ぐ
東京都教育委員会は台東区に来春、開校予定の中高一貫校の白鷗高校付属中学校(仮称)の社会科(歴史的分野)教科書として全国の公立校から〞不適格〟の烙印を押された『新しい歴史教科書』(扶桑社発行)を採択した。「教科書8社あるなかなぜ、扶桑社版なの?」。この日だけで20余の関係団体から疑問と怒りに満ちた抗議・声明文などが都教委に寄せられた。
都教委が都立養護学校(中学部)で使用する社会・歴史的分野の教科書採択にあたって01年6月に作成した「教科書調査研究資料(中学校)」を見ると、扶桑社版の評価は全8社のなかでも下位になっている。この年、私立も含めた全国での採択率も0・097%にとどまった。公立で唯一採択した愛媛県立の中高一貫校は例外といえよう。 26日、採択が決まったのを受けて都庁で記者会見した市民団体「子どもと教科書全国ネット21」の俵義文事務局長は「教科書の内容が変わったわけでもないのに」と首をひねった。これについて同ネットの代表委員でもある東京大学大学院教授の小森陽一さんは「極めて政治的な判断に基づいた採択」と断定した。
なぜなら政府レベルでは97年3月、「実際に使用する現場の教師の意向が反映されるよう、将来的には学校単位の採択が必要」と閣議決定しているからだ。その後、98年と99年にも同様の内容で決定している。これは教材の選定権限は教師にあるとしたILOやユネスコによる勧告とも軌を一にしている。
にもかかわらず、都教委は教員から教科書採択権を奪い、01年から教育委員に採択権を委ねてきたからだ。この日の記者会見に臨んだ「東京ネットワーク」の吉田好一代表からは「ILOとユネスコに提訴することも検討する」との声が出た。東京都歴史教育者協議会も声明で「現場教員が採択しない扶桑社版歴史教科書を採択させるための策としか考えられず、大きな過ち」と決定の撤回を求めている。
都教委による採択がこの間、密室のなかで推し進められてきたことも各団体の不信を買った。無記名投票のためこの日、教育委員6人がどの教科書を支持したのかも不明だ。出席者からは「審議の資料、採択過程の公開を求めていく」といった声が相次いだ。
05年は全都・全国で中学校教科書の採択が行われる。「つくる会」教科書をめぐる問題は今後さらに大きくなりそうだ。
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在日の対処正念場 都教委には説明責任…識者らの声
朴一さん(大阪市立大学教授)
これでは外国人が都内に住みたくなくなる。外国人の立場に立ってテキストを選ぶという最低限の配慮すら欠かすとは自殺行為ですよ。少子高齢化が進むなか、石原さんはステップを踏みはずしましたね。
鄭早苗さん(大谷大学教授)
「つくる会」の歴史教科書は今後、もっと増えていくだろう。在日はまず、自分たちの歴史を知ることから始めよう。古代渡来文化の輝きをいうより、近現代史を知ることこそがもっと大事だ。多文化共生という具体性が提示しにくい言葉をものわかりよく肯く前に、1、2世の時代を知るということを共通認識としていきたい。
「『つくる会』の教科書が本屋で平積みされたように、在日も本屋で平積みにされるぐらいのものを作ってほしい」と在日のよき理解者である日本人の知人が言った。そういう対決姿勢こそが正論であるように思う。あとは在日の覚悟だけだ。
壽隆さん(青年会中央本部会長)
都民から「扶桑社の教科書を採択しないでほしい」という声が上がっているのに採択をしたのだから、都教委には説明責任がある。
これまで歴史の反省をもとに友好関係を築きあげてきたのに、侵略戦争を肯定的に記述したり、植民地支配を美化している教科書を採択したことで、批判は避けられないと思う。しかし、このことで韓日関係に溝をつくってしまうのは好ましくない。よりよい社会と教育の実現のために協力していきたい。
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「つくる会」とは
「従軍慰安婦」や南京大虐殺など、日本の戦争犯罪行為を教科書に記述することに反対する人たちが中心となって97年1月に結成。「会」が主導した中学校歴史教科書は、日本のアジア支配や侵略戦争を正当化したばかりか近隣諸国を不当に貶めている。
(2004.8.31 民団新聞)