掲載日 : [2004-11-04] 照会数 : 4632
あなたと出会いたい 篠藤ゆり(作家)
少し前になるが、友人であるオペラ歌手・田月仙さんの、デビュー20周年リサイタルを観にいった。彼女のことは、NHKスペシャルでも大きく報道されたが、お兄様3人が「帰還事業」で北へ渡り、なかには非業の最期を遂げた方もいる。
彼女とは知り合って10年以上になるが、そのバイタリティーにはいつも感心させられる。
だが、息子を奪われた母君の悲しみや、引き裂かれた家族の思いを知るにつけ、使命感が彼女のエネルギーの源かもしれないと思うようになった。歌い続けることで、多くの人に何かを伝えていきたい。その一念が、挫折をも乗り越える力となったのだろう。
彼女を取り上げた番組は幸いにして反響が大きく、在日の離散家族の悲しみを初めて知ったという日本人からのファックスやメールも局に多数寄せられたという。
逆に言うと、そのくらい私たち日本人は、あまりにも在日について知らなさすぎたのだ。在日の歴史も。現実も。気持ちも。
もちろん問題意識を持っている人は、自分から知ろうとするだろう。だがそうでない場合、案外偶然の出会いがきっかけで、扉が開くことがある。それは音楽かもしれない。映画や文学かもしれない。あるいは、たまたま目にしたテレビ番組かもしれない。
だからどんなジャンルであれ、在日の若い人たちは、ルーツを明らかにしてメジャーを目指してほしい。バイタリティーを武器に、どんどん日本社会で打って出てほしい。そうすれば私たちは、もっと出会うことができるはずだから。
(2004.11.3 民団新聞)