掲載日 : [2005-02-16] 照会数 : 5644
ホーム&アウェイ 篠藤ゆり(作家)
瞬間視聴率が57%を超えたWカップ予選。北朝鮮チームに参加している在日Jリーガーの一人、李漢宰君のご両親が、こんなことを言っていた。 「あの子にとってこの試合は、ホームであり、アウェイなんです」。
いまや4世、5世が生まれる時代。朝鮮半島にルーツは持っていても、若い世代にとっては、日本はまさにホームカントリーだろう。でも1世は、事情が違うようだ。
「オモニが最近突然、最後は故郷の済州島で過ごしたいからあちらに家を買うと言い出して、家族全員びっくりしているの」。友人がそう言っていた。人生の大半を日本で過ごしてきたのに、1世のお母さんにとって、結局日本はホームではなく、アウェイであったのかもしれない。人生の締めくくりは故郷で。それは理屈を超えた感情なのだろう。だが、その気になれば実行できるだけの余裕がある人は、まだ恵まれている。
今、1世の老齢化が進むなか、無年金など様々な事情から、苦しい老後を送っている人も少なくないと聞く。また、病気のせいで使い慣れていたはずの日本語が出なくなったり、生活感覚の違いから満足なケアが受けられない人もいるそうだ。
歴史の流れのなかで、この国で暮らすことになった1世たち。いろいろあったけれど、日本を終の棲家と思って、最後のときを安心して過ごせるように。そのために、今、何をすべきなのか。これは在日と歴史的責任を負う日本人が一緒に考えなくてはいけない、待ったなしの問題ではないだろうか。若い在日青年の活躍を見ながら、ふと、そんなことを思ったのだった。
(2005.2.16 民団新聞)