掲載日 : [2005-03-02] 照会数 : 9541
等身大の在日理解へ 兵庫県立湊川高校の「人権教育」(05.3.2)
[ 湊川高校で「朝鮮語」を教える方さん(中央) ]
韓国語正課に30年
第2外国語に韓国語の授業を導入する高等学校が急増していることが分かった。朝日新聞によれば04年5月1日現在で247校、履修生徒数は6960人にのぼる。これはフランス語を抜いて2位。韓国語の履修者が増えれば、等身大の在日理解がさらに進むものと期待される。関西と東京の教育現場から現状を見てみた。
同胞生徒にも好影響
【兵庫】公立高校で韓国・朝鮮語は第2外国語のなかの選択科目としての位置づけがほとんど。だが、兵庫県立湊川高等学校(長田区、定時制課程・普通科=平野義二校長)では「朝鮮語」が必修だ。全国に先駆けて73年に設置された。今日まで30年以上続いているのは同校だけ。
2年から3年までは週2時間の授業が続く。4年になると選択科目となる。担当は朝鮮語科主任を務める在日2世の方政雄さん(53)と時間講師の劉精淑さんの2人。
方さんは授業で韓国映画をビデオで見たり、生徒と一緒になってチヂミを作ったりもする。教師と生徒の間の垣根はとても低いようだ。「カムサハムニダ」「アニエヨ」の発音に方さんがすかさず「覚えるのが早い」とほめると、「ほんまに覚えられる」と生徒の顔がほころんだ。
生徒の中には韓半島にルーツを持つ在日3世もいる。教室では通称名がほとんどだ。でも、出自は隠さない。「うちのおとん、韓国やで」「うちのおかん、韓国人や」と自然と口を突いて出てくる。
方さんはといえば、小学生のころ、民族衣装のハルモニを町で見かけるととっさに電信柱の陰に隠れたほうだ。思い出すといまでも胸が痛むという。方さんはいま、「在日同胞は軟着陸しつつあるな」と感慨に浸っている。
湊川高校に「朝鮮語」が開設されたのは「人権教育」のため。創設時の朝鮮語教師は詩人の金時鐘さんが務めた。当時の生徒たちは「しょうもない朝鮮語を朝鮮人から受けて、この授業を受けへんかったら卒業できひん。なんや、おかしな話や。わけのわからない朝鮮語の授業を受けるのもおかしな話や」と話していた。金時鐘さんは方さんに「日本社会にねじ込む、きしむ音だった」と語ったという。
卒業生の一人、佐伯朋子さん(奈良教育大学4回生)は昨年9月から韓国の嶺南大学の「文化遺産外国語解説能力培養事業」教育の対象者に選ばれ、交換留学生として学んでいる。
方さんは「生徒たちが実社会に出て韓国・朝鮮人に出会う場面があったとき、なんの偏見もわだかまりもなく素直に接していけるようになっていたとき、私の朝鮮語授業は本当に成立したといえるだろうと思っています」と話している。
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教壇に立ち20年 方政雄さん略歴
51年、兵庫県三田市生まれ。県立尼崎高校在学中に本名宣言。東京電機大学卒業後、「民族を必死で取り戻す作業」として地元の民団などの主催する韓国語講座を受講、本国にも語学留学して韓国語を習得した。ある日、電気工事の勤務先から帰宅したところ、待ちかまえていた湊川高校の校長らから「朝鮮語」講師就任を懇請され、85年から教壇に立つ。92年に「社会科」の教職免許を取った。多文化共生をテーマとした「伊丹マダン」の実行委員会代表。
(2005.3.2 民団新聞)