掲載日 : [2005-03-16] 照会数 : 7302
歴史歪曲の阻止正念場 剣が峰の教科書「近隣諸国条項」
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市民連帯で対抗へ…「つくる会」の攻勢あらわ
他者(近隣諸国)を貶め、自己(日本)を美化する歴史歪曲に歯止めはかかるのか‐。「新しい歴史教科書をつくる会」主導の歴史教科書は、前回01年時の中学生用教科書の全国一斉採択では完封された。しかし、今回は予断を許さない。この8月に行われる一斉採択をめぐる動きは、来月5日の検定結果の公開を前に、すでに緊迫した様相を呈している。
侵略反省の見解どこへ
中山成彬文科相の「従軍慰安婦や強制連行という言葉が減って良かった」との発言(昨年11月)に明らかなように、今月中に検定が終わる中学生用歴史教科書は、各出版社とも表記を後退させている。まして「つくる会」主導の改訂版教科書は、近隣諸国を貶め日本を美化する記述がより巧妙になったとされる。
本来であれば、検定申請図書の内容は検定基準の「近隣諸国条項」によってチェックされる。だが、文科省には歪曲礼賛をいとわない大臣や、その大臣発言を支持し、近隣諸国条項をあからさまに否定する政務官らが配置されている。検定に当たる事務方への政治的な圧力は強力だ。前回の検定で「つくる会」教科書を合格させた事務方の姿勢からして、チェック機能を鈍らせる可能性は否定できない。
この検定以上に問題視されるものに「つくる会」教科書の採択攻勢がある。同会はこの間、右派性向の諸団体と連携して地方自治体に働きかけ、自民党や小泉政権もその動きを全面的にバックアップしてきた。その狙いは「歴史教育の問題は、憲法改正、教育基本法改正の問題と表裏一体の重要課題」(04年6月=安倍自民党幹事長通達=当時)とする認識に明らかだ。「つくる会」教科書は、「平和国家」の象徴とされた憲法9条を見直し、教育基本法に「愛国心の育成」を盛り込むための環境をつくり、肉付けする尖兵に位置づけられている。
こうした根深い潮流が教科書に直接反映されるのをまがりなりにも抑止してきたのは、「アジア諸国との間の近現代史の歴史的事象の扱いに国際理解と国際協調の見地から必要な配慮」を求めた近隣諸国条項だ。侵略の事実を糊塗(こと)する検定姿勢が問題になった82年、日本政府は「我が国の行為が韓国・中国を含むアジアの国々の国民に多大な苦痛と損害を与えたことを深く自覚し、このようなことを二度と繰り返してはならないとの反省と決意」を改めて表明し、この精神を検定基準に盛り込んだのである。
日本政府が示したこの公式見解は、近隣諸国に対するいわば公約だ。95年の「戦後50年にあたっての村山首相談話」ではさらに、「植民地支配と侵略」の事実を認め、「痛切な反省」と「心からのお詫び」も表明されている。98年に金大中大統領と小渕首相が未来志向の韓日関係を謳いあげた共同宣言もそれらの積み重ねを基礎に置いたものだ。その対日姿勢は現在の盧武鉉政権にも踏襲され、政府レベルにおける近年の韓日関係はおおむね良好に推移してきた。
未来を占う日本の対応
しかし、日本政府の公式見解に基づいた近隣諸国条項や国際信義を巧みに踏みにじる教科書が前回、検定を通過してもアツレキの尾を引かず、韓日関係に大きな揺らぎがなかったのは、採択率が限りなくゼロに近かったからに過ぎない。「つくる会」が今回、目標の採択率10%に近づけるとなれば、状況は自ずと変わる。
関係成熟化を映すはずの「韓日・日韓友情年」は一方で、歴史認識を問う機会にもなる。二律背反の微妙で不安定な韓日関係を揺さぶるように、日本側が独島問題に再び火を点けた。これに、歴史歪曲の教科書問題が加われば、韓日関係は近年で最も険悪になりかねない。盧大統領の3・1節記念辞はそうした危惧から、真の和解のための努力を日本に厳しく求めたものだ。
韓日両国は、豊かな東アジアの未来をともに築く宿命にある。仲違いのまま一方だけが努力しても未来は描けない。「友情年」はその必然性を確認する契機となるべきだ。教科書問題はその側面からも重要な意味を持つ。政治・行政に限界があるならば、韓国、日本、そして在日の市民的な連携と信頼を積み上げる必要性は、その分大きくなる。
問題教科書の採択を再び低く押さえ込んでも、4年後にまた同じことを繰り返す可能性は残る。しかし、消耗するのは相手も同じことだ。市民レベルの横断的な連帯を固めることで、歴史歪曲教科書の普及にストップをかけ続け、この種の運動をジリ貧に追い込むほかない。この準備は着々と進んでいる。こうした努力は確実に、韓日を軸にした豊かな東アジアを引き寄せることにつながるはずだ。
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韓日友好損う政務官の発言…民団文教局長談話
文部科学省の下村博文政務官が6日、「従軍慰安婦の記述が減ってよかった」との昨年11月の中山文科相発言を支持する考えを表明したことに対し、中央本部の孫成吉文教局長が7日、要旨次のような談話を発表した。
現職の担当責任大臣が不用意な発言で物議を醸し、その後不適切だったとして謝罪したにもかかわらず、その『失言』を支持するという政務官とはいかなる立場にあるものなのか、ただ唖然とするほかありません。
解放後間もなく60年になろうとする私たちの足跡は、一面で日本の戦後史・近代史そのものに他なりません。その意味で歴史の当事者である私たちは、一部の中学校歴史教科書に、かつての日本の侵略戦争を美化するかのような記述が随所に見受けられることを、遺憾の思いを持って見つめています。
本年は、韓日国交正常化40周年を迎える年です。こうした『妄言』が、政府のみならず地方自治体や民間交流を通じて築かれた韓日友好親善に水を差さないよう、私たちは両国の架け橋としての立場から、引き続き努力して行く所存です。下村政務官が近隣諸国に真摯に目を向けるとともに、本年の教科書採択で本来の責務を果たされるよう、心より望む次第です。
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写真絵解き
写真上
琉球大学の高嶋伸欣教授(左)と関西大学の上杉聰講師が11日、検定審査中の「つくる会」の歴史教科書申請図書(白表紙本)が地方の教育委員会に流出し、扶桑社だけが営業・宣伝活動を行っている不公正な問題を重視、文部科学省に適切な措置を取るよう申し入れた。また、「つくる会」の前副会長、高橋史朗氏が昨年、埼玉県教育委員に就任したことと関連、同教科書の監修者であるかどうかについての情報も公開すべきと要求した。
写真下
在日韓国青年会(壽隆会長)は8日、教科書問題に関する日本国内メディア向けの記者会見を開いた。会長は約30人の記者の前で、「つくる会」が偏向教科書を強引に採択させるため、制度自体を変えようとしている動きを批判。「特定の教科書を推す一部の人間が、韓日友好へのこれまでの努力を逆流させようとしている。史実が改ざんされれば、子どもたちが過去の教訓を学べず、偏見や争いに巻き込まれる」と主張した。
(2005.3.16 民団新聞)