掲載日 : [2005-04-13] 照会数 : 6147
まだ戦争は終わっていない…織井 青吾(作家)
まだ戦争は終わっていない…織井青吾(作家)
一昨年の暮れのことであったと思う。韓国の慶尚南道の北の端ちかくにある陜川という寒村から、一本の電話が届いた。在韓の被爆者である郭順 からで、孫の宋太鎬が大邱の病院に入院したという。
白血病とのことである。病勢は一進一退をかさねるだけで、いまだに確たる治療の目途もたっていない由。
7、8年前であったか、陜川郡の竜旨里にある郭さんの宅を訪れた折に、たまたま太鎬が遊びに来ていて、すっかり仲良しになってしまった。彼の4、5歳の頃のことで、活発ないい子であったが、わたしが帰国する折、陜川のバス・ターミナルまで付いて来て、さんざん泣かれ、辛い思いをした記憶がある。
いまは、小学校の5年になっている筈であるが、以来入退院を繰り返しており、学校のほうも遅れがちであるという。
宋太鎬は、ヒロシマに尾をひく被爆三世である。現在は、時たま輸血をしているが、ひたすら骨髄移植の機会の訪れを待ちながらの日々である。日本では、在韓被爆韓国人への手当てが、やっと在日日本人なみに支給されるようになったばかりで、二世はおろか太鎬のような被爆三世ともなると、遠くその手は及ばない。胸が痛む。
戦争は、まだ、決して終わっていない。にも拘わらず、自由民主党の国会議員たちは、強制連行や従軍慰安婦の文字が教科書から消えた、と喜んでいるさまである。何時ものごとく、ただ目先を変え、それでことを済ませようとして、恥じるところがない。かくてアジア諸国からの信頼を失う‐。太鎬少年は、いまどんな思いで、日々を過ごしていることだろう。
(2005.4.13 民団新聞)