掲載日 : [2005-05-25] 照会数 : 7326
多様な関連書籍…注目の10冊紹介
[ 東京の八重洲ブックセンター ]
韓日関係 読み解こう
戦後60年、韓日国交正常化40周年をはじめ、両国にとって様々な歴史的な節目の年を迎えている。両国は今年を韓日・日韓友情年に定めたが、独島の領有権や歴史教科書問題をめぐり、交流行事が中止に追い込まれるなど、関係がギクシャクしてきている。一方、韓流の勢いは相変わらず根強く、11日の愛知万博・韓国ナショナルデーに10万余の観客が詰めかけたのもその一例だと言える。同様にNHKテレビハングル講座のテキストが4月に過去最高の22万部を数えたほか、韓流の関連本は各書店でコーナーが設けられるほどだ。友好・反発と交流・断絶のせめぎあいは書店でも見られ、韓日間の歴史を真摯に掘り起こそうとする「戦後60年ブックフェア」の書籍のそばに、新しい歴史教科書をつくる会(以下、「つくる会」)の関連本が陳列されている。本紙は重要な節目の年に当たり、韓日関係理解の一助となる書籍を紹介する。韓日教師の共同研究による教科書づくりの取り組みと実践、「つくる会」教科書への反駁を基調とした歴史学者のシンポジウム報告と日本の教育現場からの声など、内容は多岐にわたる。
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日韓共通歴史教材 朝鮮通信使
侵略克服して友好へ…韓日教師が副読本作成
広島と韓国・大邱の教組に属す小・中・高校の教師らが、3年間の年月の末、去る4月末、共通の歴史副読本を両国で同時に出版した。
時には互いの民族や国家を背負うあまり、激論と沈黙が繰り返されたが、そのたびに「両国の共生時代を構築するために、子どもたちに何を伝えたいか」という原点に立ち返った。両者をとりもつ助言役は常葉学園大の金両基客員教授が務めた。
歴史的事実を確認し合いながら共通の歴史認識に基づき、朝鮮通信使での人と文化の交流を中心に、戦争と平和に焦点を当てた。取り扱った時代は1392年(朝鮮は建国、日本は南北朝の統一の時期)から1811年までの約420年。
解説のほか、カラー写真や挿絵、年表などが用いられ、読みやすい編集努力が伺える。
日韓共通歴史教材制作チーム編著、明石書店 1300円+税
℡03‐5818‐1171
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歴史教科書とナショナリズム
歪曲への構図と人脈…書き換えから自主規制
「つくる会」が台頭する以前にも教科書問題に端を発したアツレキはあった。「侵略」を「進出」と書き換えた82年の検定は、韓国と中国の猛反発を引き起こし、その結果「近隣諸国条項」が加えられた。隠蔽されてきた従軍慰安婦などの記述が、教科書に反映されるようになった。
そのことを快く思わない自民党は93年に「歴史・検討委員会」、97年に「若手議員の会」を立ち上げる。民間では95年に「つくる会」の母体、「自由主義史観」研究会が発足、「自虐史観」というレッテル張りで、これまでの歴史研究の成果としての記述を攻撃する。
そして、時の文部大臣が教科書会社の経営者を呼びつけて「命令」を言い渡すと、「従軍」の表記が消えていく。「つくる会」に賛同の大合唱を送る人脈と構図を斬る一冊。
和仁廉夫著、社会評論社1800円+税
℡03‐3814‐3861
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若者に伝えたい韓国の歴史
韓流プラス歴史認識…暗部と親善を多角分析
韓国の歴史を日本の中学生が読んでも理解できるように書かれた入門書。両国のカトリック司教の交流が土台になり、発刊が決まった。韓国・ソウル大の李元淳名誉教授ら3人の原稿を、東京学芸大の君島和彦教授らが翻訳した。「韓流だけで終るのではなく韓国人の歴史認識をプラスしてほしい」との君島教授の指摘が共鳴を呼ぶ。
巻頭に韓・日・中3国の時代変遷が年表で記されている。続いて国旗・太極旗、国花・無窮花、文字・ハングルの解説がある。本文に入ると、第1部で韓国の成り立ちを、第2部で日本との文化交流を説明している。支配・被支配の歴史の暗部だけでなく、友好関係にあった明るい部分や、違和感なく日本文化を受け入れている最近の韓国事情も付記している。本書も両国で発刊されている。
李元淳ら著、明石書店 1800円+税
℡03‐5818‐1171
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歴史教科書をめぐる日韓対話
歴史歪曲斬るシンポ…検定の意図・実態もメス
01年4月、「つくる会」メンバー主導の歪曲された歴史教科書が、137項目もの修正を受け入れた末に文部科学省の検定を通過した。
この事態に対して、韓日両国の歴史学・歴史教育関連のそれぞれ5学会に所属する学者は同年12月に東大、03年6月にソウル大で教科書問題に関する日韓・韓日合同シンポジウムを行った。
そのシンポの成果を前段で述べた上で、第1部に歴史教科書問題の背景、第2部に問題解決の糸口、第3部に東アジアの共生と歴史教科書問題の今後について、両国の学者が報告をしている。
批判の的はつくる会のみならず、「近隣諸国条項」を軽視してまで検定を通した文部科学省・日本政府の政治的意図にメスを入れた。在日の学者による韓国の国史教科書批判も新味がある。
歴史学研究会編、大月書店 2500円+税
℡03‐3813‐4651
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韓国との対話
戦争顧み今後を模索…独の戦後対応にも焦点
著者は90年から2年あまり、日韓歴史教科書改善を進める両国専門家の共同研究に関わった。植民地支配などの負の歴史に対する日本人の無反省も問題だが、韓国に対する過剰な謙虚も問題だという立場から、第1部ではアジアの共生のために日本の過去の戦争を振り返り、隣人である韓国との対話を模索する。
2部では軍国日本とナチス・ドイツの日常に焦点を当て、戦争に突っ走った状況を検証する。3部では国際協議を通じて教科書を改善しようとしたドイツの経験に学ぶ。 戦後50年の95年、政治家らが相次ぐ暴言で辞任した。西ドイツのシュミット元首相は、「欧米と比べ、日本では歴史をまともに学んでいない政治家があまりにも多い」と語った。日本人の戦争観そのものが問われているとの指摘は傾聴すべきだ。
藤沢法暎著、大月書店 2400円+税
℡03‐3813‐4651
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史実が示す日本の侵略と「歴史教科書」
公開資料もとに検証…よみがえる歴史の教訓
「歴史を学ぶのは、過去の事実を知ることではなく、過去の事実について、過去の人がどう考えていたかを学ぶことだ」という「つくる会」の強弁に対し、侵略戦争の意図を示した当時の政府、軍などの記録を駆使し、日本の戦争と植民地支配を検証している。
明治維新の立役者、吉田松陰は「朝鮮を責めて質を納れ(中略)国力を養ひて取り易き朝鮮を斬り従へん」と征韓論を主張。閔妃暗殺を命令した三浦梧楼は「これで朝鮮はもう日本のものになった。もう安心だ」と放言。韓日併合を進めた外務省の倉知鉄吉は対等合併ではなく「韓国が全然廃滅に帰して帝国領土の一部になること」の意味を併合に込めた。この「歴史の教訓」に学ばず、好戦性の系譜を受け継いでいるのが、「つくる会」だと看破している。
吉岡吉典著、新日本出版社 2000円+税
℡03‐3423‐8402
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歴史にみる日本と韓国・朝鮮
通史をコンパクトに…コメ伝播から侵略まで
高校生の日本史副教材用に編集された資料集。日本の過去と現在を理解するためにも、隣国との関係史を知った上で、友好関係に資するべきだと説く。
第1章「原始・古代」の時代から「倭人」と「韓人」は、様々な関わりをもってきた。日本のお米(ジャポニカ種)の炭化米が、紀元前5世紀頃から農耕を営んでいたとされる忠清南道扶余郡の遺跡から大量に出土された。その米が朝鮮の農耕技術者とともに紀元前300年頃日本に伝わったというのが、顕著な例である。
ところが、2章「中世・近世」では秀吉の2度にわたる朝鮮侵略があり、3章「近代Ⅰ」では日本に併合され、4章「近代Ⅱ」では強制連行へと時代は一転、悪化の一途をたどっていく。分断国家の現状と日本の責任にも言及している。
鈴木英夫・吉井哲編著、明石書店 1300円+税
℡03‐5818‐1171
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歴史教科書の可能性
つくる会の誤り突く…8つの研究団体の報告
「つくる会」の教科書が明るみに出るや、日本の歴史学者らは相次いで問題点を指摘する声明、アピールを発表した。問題点の一つは、教科書としての最低基準を満たさないほど、誤りが多かったという点である。
関西を主な活動基盤にする8つの歴史研究者団体は01年7月、日本で初のシンポジウムを開催した。本書はその報告が元になっている。
第1部の時代別検証では、考古学から始まり、古代史・中世史・近世史・近現代史研究へと続く。第2部のテーマ別では、朝鮮近現代史・中国近代史のほか、つくる会の教科書に顕著な女性差別を批判する立場から、日本近現代女性史・法制史が書かれている。また、00年12月の「女性国際戦犯法廷」での勧告にある従軍慰安婦問題の教科書への記述アピールを載せた。
原田敬一・水野直樹編、青木書店 2400円+税
℡03‐3219‐2341
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韓国・朝鮮と近現代史教育
アジア共生への提言…実践教育通じ意識改革
大学で教鞭をとる著者は、日本の中・高・大学生らを対象に近現代史のアンケートを実施した。韓国併合を知ってはいるが、大半は用語のみの理解にとどまっていた。
本書は日本の若者が過去の事実に萎縮して、アジア諸国に無関心になるのではなく、関心を持つことが大事だという視点から書かれた。同時に、日本側の「心の壁」を低くするには、韓国側の努力も必要だと指摘する。
韓国の若者と歴史認識の課題では、日本への不信感を持ちながらも、日本製品に包まれた生活というギャップを浮き彫りにしながら、韓国の若者自らが相互理解のための意識改革が必要だとの前向きな意見を紹介。また、在日をめぐる教育についても、当事者、学校現場、地域の実践をスペースを大きく割いて報告している。
坂井俊樹著、大月書店 2700円+税
℡03‐3813‐4651
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歴史教科書と日本の戦争
愛国者を装う売国奴…戦争正当化の記述断罪
冒頭に作家の井上ひさし氏の「愛国者と売国奴」という寄稿がある。過去の間違いをひたすら覆い隠そうとする日本人は、一見、愛国者に見えて、じつは国民の質を貶め、この国の市民を地球社会から永遠に隔離しようとする売国奴であり、過ちを鋭く指摘する日本人こそ、一見、売国奴に見えて、そのじつは比類なき愛国者である、という内容だ。「つくる会」とその同調者への痛烈な一撃から本書は始まる。
著者は日本共産党の議長。「つくる会」の教科書を批判する立場から第2章で韓国植民地支配がどう書かれているかを検証した。その答えは、もっぱら日本の安全保障のために韓国併合はやむをえなかったという正当化に終始したものだった。韓国の主権を奪った犯罪性や反省がまるでない驚くべき代物だった。
不破哲三著、小学館 1200円+税
℡03‐3230‐5739
(2005.05.25 民団新聞)