掲載日 : [2005-07-27] 照会数 : 9527
夏休みこどもフェスティバル「韓国絵本展」
[ 和歌山静子さん ] [ 韓国の伝統文化が分かる「サムルノリ」(下)と「韓国キルト1・2・3」 ]
平和へ…心つなげたい
絵本作家の和歌山静子氏
アジアの絵本ライブラリーを開設している絵本作家の和歌山静子さん(65・神奈川県逗子市)。今年6月に開館した逗子文化プラザホールのオープニングイヤー記念事業「夏休みこどもフェスティバル」(8月11〜20日)の絵本原画展と同時開催される「韓国絵本展」で、多彩な韓国作品を紹介する。「アジアに住む人々が仲良くしてほしい」という、切なる願いを込めた。
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アジアの絵本ライブラリーから紹介
国超え相互理解…戦争被害者の痛み胸に
和歌山静子さんが「韓国絵本展」で紹介するのは、韓国の民族的なものや、独創性あふれる作品をはじめ、日本の絵本の韓国語版など、全123タイトル(うち日本語翻訳版19タイトル)におよぶ。
韓国、中国、台湾、日本の絵本を本格的に集め始めたのは2003年から。絵本などの著作権、証票管理を行っているメディアリンクス・ジャパンの協力を得て、これまでに406タイトル、1218冊を集めた。なかでも韓国は140タイトルと最も多い。
選定基準は韓国と日本、台湾と日本で翻訳されているものを中心に、翻訳はされていないが内容の優れている原書など。これまでに韓国、台湾、日本の3カ国語で出版された同タイトルの絵本は現在、10組揃っている。和歌山さんは「絵本が世界中で交流している」と目を細める。
特に良質な作品が多いのが韓国で、「新しい試みも含めて、民族性を描くということは、自分たちが地に足をつけて書いているということ。そこが韓国絵本の魅力」だと強調する。
和歌山さんお気に入りの伝統音楽の演奏風景を描いた「サムルノリ」と、手縫いのポジャギを素材にした「韓国キルト1・2・3」でも、固有の民族性を大事にする作家たちの思いが伝わってくる。
和歌山さんは1940年生まれ。当時日本は韓国・台湾を植民地支配し、中国と交戦中で、また41年12月には太平洋戦争に突入した。日本がこれまでどのような戦争をしてきたかについて、心を痛めてきた。
86年、ソウルで開催された日本の絵本作家たちによる原画展に参加。交流会の席で、隣席した韓国人の絵本作家に日本人として、植民地支配に対する謝罪を述べたこともある。
返答は非難の言葉ではなく、戦争が終わってほっとしたすきを狙って、韓国戦争が勃発したという内容だった。「ほっとしたすきと言われたとき、何とも言えない気持ちになり、その言葉がずしんときた」。和歌山さんはこの時初めて、言葉で謝りきれるものではないことが分かったと話す。
中国の地方で紙芝居や絵本の読み聞かせも行うなど、韓国や中国、そしてアジアのために絵本作家としてできることを模索してきた。大きな転機を迎えたのは04年8月に富山県の大島町絵本館で、韓国、中国などから150人の児童文学者や研究者らが出席して開催された「第7回アジア児童文学大会」だ。
大会の一環で開催された「アジアの絵本展」で、約170冊の作品を展示し、各国の人々が絵本の世界を楽しんだ。この時、絵本でこそできる交流に手応えを感じた。もっと多くの人たちに絵本を見てほしいと、和歌山さんが私財を投じて購入した絵本が、全国の施設に貸し出されている。
今の目標は韓国、中国で展示会を開くことと住居をアジアの絵本の家にすること。「私の根底にあるのは、日本が過去にしてきたことへの、言葉では表せない謝罪の気持ちだ。絵本を通じて、各国の皆さんが喜んでくれたらと思っている」
読み聞かせでは、子どもたちが目を輝かせながら本を見つめる。「絵本を通じて子どもたちは何の違和感もなく、純粋に楽しんでくれる。お互いの国の絵本を見てほしい」と、子どもたちが軽やかに国境の壁を飛び越えることを期待している。
(2005.07.27 民団新聞)