掲載日 : [2005-11-16] 照会数 : 7746
韓日友好を読み解く時…理解促す10冊紹介
[ たわわに実ったリンゴのように、韓日関係の今後も…… ]
多文化共生を願い
在日100年、戦後60年、韓日国交正常化40年の節目の年もはや晩秋となった。「韓日・日韓友情年」を祝う今年、韓日両国では各種のイベントが開催されるなか、友好関係は着実に進展してきたと言える。その一方で、歴史認識をめぐるギクシャクから韓国に反発する動きも顕在化し、書店には嫌韓感情をあおる本も平積みされている。韓日友好と多文化共生を願う在日同胞や日本人読者のために、「読書の秋」にちなんで韓日の歴史や交流、韓国や在日理解を促す良書を紹介する。
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黄色い蟹(崔碩義著、新幹社。2500円+税 ℡03‐5689‐4070
胸に迫る同胞の受難…ズシンとひびく民族愛
10数年間発表してきたエッセイなどを一冊の作品集にまとめた。肩の凝らないエッセイが多い中で、小熊秀雄の詩『長長秋夜』には、目を見張った。隣国を植民地支配したことに対する若き詩人の痛烈な批判精神が宿っていたからである。蹂躙された人々の痛みに思いをはせた詩人は、石川啄木だけではなかったことを知った。
かつて朝鮮総連に属し、民族運動に半生をかけてきた著者が紹介する同胞ハンセン病患者の短歌「主義主張異なる故に憎みつつ我もその民族のひとりなり」もズシンときた。北韓への複雑な思いをベースに、北に帰った友人を偲ぶ『身捨つるほどの祖国はありや』と、帰郷を果たせなかった時代の『泗川風景‐オッパへの手紙』の2つの短編小説も含め、いずれも底流に民族への愛がある。
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〈ワンコリア〉風雲録鄭(甲寿著、岩波書店。480円+税 ℡03‐5210‐4000)
熱いエネルギー結集…誰もが参加の統一運動
「統一は政治抜きには語れないが、もっと楽しく面白く語ったり、歌い、踊ることも必要なのではないか」。
統一を願う新しい表現方法として、85年8月15日、解放40周年をきっかけに誰でも賛同できる「統一」をテーマとして「8・15〈40〉民族・未来・創造フェスティバル(90年にワンコリア・フェスティバルと改称)」が始まった。
ところが、思い込みの強さに反比例して、1年目の参加者は200人と寂しく終わった。
幾度かの挫折を味わいながらも、著者の統一に対する思いと、同フェスティバルを成功させたいという信念が熱いエネルギーとなり、今日では2万人を数える大きなイベントに成長させた。この風雲録からは、若き同胞たちの現場の息遣いが聞こえてきそうだ。
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ある日韓歴史の旅(竹国友康著、朝日新聞社。1300円+税 ℡03‐3545‐0131)
桜の木々は見てきた…600年のえにしと悲哀と
副題に鎮海の桜とあるように、鎮海の春は街全体が桜に覆われる名所として知られる。なぜこの地に桜が根付いたのか。素朴な疑問から韓日の歴史をめぐる旅が始まる。
鎮海と日本を結ぶ線は、豊臣秀吉の朝鮮出兵以前にまでさかのぼる。倭寇対策に頭を痛めていた朝鮮王朝は15世紀初め、集落から略奪をしないという条件で倭人と交易する便宜を図り、3つの港を開港した。その一つが鎮海だった。
植民地支配が始まると日本は1911年に鎮海を第5海軍区とし、「軍国の花」として桜を植樹した。桜は中国にも咲き、染井吉野は済州原産説があるにもかかわらず、日本にしかないという国学者の考え方を拡散させるとともに、本居宣長が詠った「大和心=山桜」のナショナリズムを注入したのである。
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心で知る、韓国(小倉紀蔵著、岩波書店。2400円+税 ℡03‐5210‐4000)
「なぜ?」へのヒント…ヨン様は〞太陽政策〟体現
韓国や韓国人の言動に対して、日本人から「なぜ?」「どうして?」が発せられるほど、韓日関係はよくなると確信する韓国研究者の著者が、それらの問いに考えるヒントを与える。
端的な例がドラマ。これでもかと見せ付けられる主人公の不幸のてんこ盛りは、上昇志向の強い韓国人がやがて恨(ハン)を解いていくために欠かせない導入部分であり、ドラマ全体が陰鬱にならないのは、性善説を土台にした楽天的かつ深い情のためだと言う。
そのほか、韓国人の「体・愛・美・文化」など12項目について、非韓国人の目からうろこが落ちる解説がぎっしり詰まっている。これまで韓国に関心を寄せなかった日本が、ヨン様の微笑が決定的に作用し、韓流が訪れた。ヨン様による「太陽政策」だとの指摘に思わず納得。
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辺境から眺めるアイヌが経験する近代(テッサ・モーリス=鈴木著/大川正彦訳、みすず書房。3000円+税 ℡03‐814‐0131)
〞少数視座〟に普遍性…在日同胞の有意性示唆
筆者は辺境が重要なのは、「国史を、地域史を、ひいては世界史を違った視座から再訪する旅の出発点になり、国家/国民という中心から不可視化されかねない問題を提起しうるからである」と述べている。アイヌというマイノリティの視座が普遍性を持つのだ。
確かに、歴史は辺境・境界から変わる、とも言われてきた。最近の国際社会では、境界・辺境という存在が重要視される傾向にあり、世界各地のマイノリティー同士の連携も強まっている。在日同胞も日本、韓国・北韓という国家の枠にあっては、境界・辺境に位置する。「在日は在日」との思いも募ってきた。
「在日100年」と言われる中で、自らのアイデンティティーをどう構築するのか、在日同胞の有意性を考えるうえで教唆に富んでいる。
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朝鮮儒教の二千年(姜在彦著、朝日新聞社。2000円+税 ℡03‐545‐0131)
君子の国の文化探訪…韓国人の心情浮き彫り
「朝鮮の儒者たちは、檀君神話よりも『箕子東来説』を重視し、すでに孔子以前に、唐虞三代(堯・舜・夏・殷・周)の『先王の道』が、朝鮮に伝わったことをもって、『小中華』たることを主張する。」
儒教世界の中でも韓国は、超然とした存在であることを自負し、朱子学のみを研ぎ澄ませてきた。それはなぜか。そしてその強み、弱みとは…。同一文化圏に括られる韓・中・日3国の絡み合いや韓国人の心情が浮き彫りになる。
しかし、硬いばかりではない。唐の玄宗は新羅に赴く使節への送別の詩で、新羅人は自らを君子の国と称して学問に習熟し、水準は中国とほぼ同程度であるとした後、新羅人には囲碁の上手なものが多い、だから副使に囲碁の上手なものをつけた、と述べたことなど逸話も盛りだくさんだ。
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靖国問題(高橋哲哉著、ちくま新書。720円+税 ℡048‐651‐0053)
本質は戦争遂行装置…加害無視、被害だけ強調
首相の参拝、政教分離、A級戦犯合祀など、靖国問題の論点は多い。韓国や中国との関係に今も亀裂を生じさせる外交問題でもある。
しかし、それらの問題以前に、靖国神社そのものの性質が、どこまで一般的に理解されているのかという視点から本書は問題提起をしている。
「国家教」としての靖国信仰は、「戦死者が靖国に顕彰され、遺族がそれを喜ぶことによって、国民が自ら進んで国家のために命を捧げようと希望すること」に導くことであり、遺族の悲しみを喜びへ、不幸を幸福へと180度変える感情の錬金術だと指摘する。
そこでは戦争被害のみ強調され、侵略戦争の加害性はまったく欠落する。そして、戦死者は殉教者となり、「神」として靖国神社に祀られることが、戦争遂行の原動力だった。
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戦後60年を考える補償裁判・国籍差別・歴史認識(田中宏著、八月書館。1800円+税 ℡03‐3377‐2083)
日本国民に問いかけ…排外主義の矛盾と欺瞞
アジアの隣人を踏みにじってきた日本の執拗なまでの排外主義の歴史をたどり、すべての日本国民にこれでいいのかと問いかける。
著者は戦後補償や国籍差別の現場に身を置き、国や自治体を相手に闘ってきた。その闘いの現場から見えた日本社会の矛盾と国家の欺瞞をあぶり出す。
具体例として取りあげたのは被爆者健康管理手帳をめぐる孫振斗裁判、金敬得さんの司法修習生問題、年金差別、公務就任権と参政権など。これらすべての根っこには自国民中心主義に根ざす歴史認識に問題があると説く。サンフランシスコ講和条約発効に伴い、在日韓国・朝鮮人から国籍を剥奪したとき、「内国民待遇」を与えるべきだったとする主張には同感だ。
本書は多文化共生社会の実現に向けた著者なりの処方箋といえよう。
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朝鮮人戦時労働動員(山田昭次・古庄正・樋口雄一著、岩波書店。3200円+税 ℡03‐5210‐4000)
史実に即し実態暴く…強制労働下の民族差別
「朝鮮人強制連行はなかった。教科書から削除せよ」という「つくる会」などの動きに対して、史実に即して実証的に批判した。企業への強制連行を戦時労働動員と定義し、強制連行・労働、民族差別の実態を改めて明らかにしている。
日本で強制連行調査の礎を築いたのは、故朴慶植氏である。60年代の『朝鮮人強制連行の記録』発刊を契機に、各地で同胞団体や日本人による事実発掘が始まった。多くは炭鉱など危険な現場に送り込まれ、脱走を阻止する目的で低賃金さえもまともに払われず酷使された。同じ人間とはみなさない民族差別が歴然とあったからだ。
朝鮮人労働者に高賃金が支払われていたという荒唐無稽な「説」など、連行や労働の強制性に無視を決め込む最近の流れにクサビを打ち込んだ一冊。
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辛基秀と朝鮮通信使の時代(上野敏彦著、明石書店。2500円+税 ℡03‐5818‐1171)
「差別」への疑問から在日同胞の切実な思い
3年前に他界した辛基秀さんは、善隣友好の象徴である朝鮮通信使の絵画や屏風などの収集を早くから始めるとともに、映画「江戸時代の朝鮮通信使」を製作し、その歴史的事実を初めて世に知らしめた人だ。
のみならず、大阪で青丘文化ホールを設けて1世のための識字学級、韓国文化の紹介なども行う実践家であった。そのきっかけや収集過程におけるエピソードを丹念に取材し、在日コリアン2世の韓日両国の友好を願わずにはいられなかった切実な思いに迫っている。
辛さんの行動の原点は、反差別。韓国の白丁問題にも取り組んだ。肉を取り扱う白丁と、朝鮮通信使が日本に肉食文化を伝えたことが重なり、興味深い。“飲み談議”の好きな辛さんの気さくな人柄にも触れている。
(2005.11.16 民団新聞)