掲載日 : [2006-02-15] 照会数 : 7268
記憶に刻み次代へ 韓国船漂着地で市民が企画展
[ 当時の史実を歌で聞かせる大森和良さん(左) ]
106年前の善隣友好に光…福井県小浜市
【福井】福井県の内外海村泊(現在の小浜市泊)に漂着した大韓帝国籍の船を村人が総出で救助した106年前の善隣友好の事実を心に刻み、次の世代に語り継いでいこうという企画展「時代を越えて吹く交流の風」が県立若狭図書学習センターで開かれている。国家間の関係が困難に陥っているいまこそ民間交流で新たな韓日友好の風を起こそうと、地元の市民が計画した。
企画したのは「泊の歴史を知る会」。村の歴史や伝統行事を掘り起こし子どもたちに継承していこうと96年、地元の漁師や公務員、教員ら7人で立ち上げた。この間、小浜市立図書館に保管されていた公文書や、村人が土蔵に保管していた礼状など多くの史料を掘り起こし、遭難救護の概要をほぼ明らかにしてきた。
史料には帰国を前にした韓国人が親子のように別れを惜しみ、村人も袖を絞るほど涙を流したと記されてあった。事務局を務める音楽教員の大森和良さん(53)は「当時は韓国併合の10年前で、日清戦争から日露戦争に至る激動期。でも、人と人が出会い言葉の違いや国を超えてつながった。祖父から聞いていた話とはまさしくこういうことだったのかと感動した」という。
00年1月には「100年目の再会」と銘打った記念事業が地元小浜の海照院で行われた。呼びかけ人の鄭在吉国立全北大学校法科大学教授が実行委員長を務め、「歴史を知る会」と民団若狭支部などが全面協力した。今回の展示はこのときの100周年事業に次ぐ大がかりな催しとなった。
会場には、小浜市泊ばかりか鳥取県琴浦町からも韓国船救護関係に関する文書が寄せられ、韓国の教科者や民族楽器などとともに展示された。中央には丸木船の帆がかけられ、ハングル入りの漂着物も置かれた。
11日は会場で記念イベントが開かれ、「若狭語り部の会」の会員が小浜市の遭難救護を紹介した絵本「風の吹いてきた村」を朗読。記念講演に立った鳥取県県史編さん専門員の坂本敬司さんは「国と国との関係が困難になっても、人と人がつながってさえいれば修復は可能。韓国との間でいろんなチャンネルを持っておくことが大事」と述べた。
「歴史を知る会」では市民を対象に「日韓の友好を考えるツアー」を実施していく。また、漂着現場に「資料館」を建設していくことも夢見ている。大森さんは「人と人が出会い、学ぶことで交流の風が吹く。これからも韓日の交流を積み重ねていきたい」と話している。企画展は19日まで開かれている。
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韓国船救護の経緯
韓国船「サインパンゼ(四仁伴載)」は1899年12月27日、咸鏡北道明川沖沙浦に向かいウラジオストクを出航した。航海中、船は暴風に遭遇し、厳冬の東海(日本海)を半月余りさまよった。餓死寸前のところ1900年1月12日、内外海村泊(現在の小浜市泊)に漂着し、村民に助けられた。船員93人は8日間、村民の手厚い保護を受け、元気を取り戻して帰国した。
(2006.2.15 民団新聞)