掲載日 : [2006-06-21] 照会数 : 13889
京都市内の公立中学校・不登校の在日4世を退学に 母子で国賠訴訟
[ 報告集会。正面左端が原告の尹敏栄さん。 ]
「在日外国人は就学義務ないから…」
【大阪】京都市立近衛中学に在学中、さまざまな理由から不登校状態になった在日韓国人4世の中学生に対し、学校長が「在日外国人には就学義務がないから」と、保護者に退学届を提出させていたことが明らかになった。保護者とその子どもは「教育を受ける権利を喪失させられた」として京都市を相手取り、大阪地裁に2人合わせて1千万円の国家賠償請求訴訟を起こしている。
「教育受ける権利奪われた」
第1回口頭弁論が開かれた16日、法廷は60人以上の傍聴希望者が押し寄せ、補助いすを出しても足りなかった。立ち見まで出し、さらにそれを許した地裁に弁護人の康由美さんも「初めて」とびっくりした表情。多くの傍聴希望者の疑問は「義務教育たる公立の中学校で退学・停学は認められていないのではないか」ということに集中した。
急きょ弁護士会館で開かれた報告集会でも「どんな問題があろうとも義務教育に退学届けがあるのはおかしい。近衛中学教員の人権感覚が問われる」「子どもに対する裏切り行為」「人権無視の行政」といった批判が参加者の間で飛び交った。
一方、京都市側は「日本国籍を有しない者に対する義務教育の実施は憲法上および教育基本法上要請されていない」「希望すれば就学の機会を保障すべきもの」とあくまで「恩恵」を強調して退学処分を正当化した。
ただし、学校側が「退学届」を受理するに至った経緯については双方の主張は大幅に食い違う。
訴状などによれば、近衛中学は不登校相談に適切な処置をとらなかったばかりか、A校長は「在日外国人は就学義務がないから除籍できます」と退学をほのめかしたため尹さんは「家庭内教育もやむなし」との判断に傾いたという。
一方、市側は「原告が将来受ける不利益を最重点に考え、一貫して慰留に努めた」とされる。だが、最後は「退学届」を受理し、大阪市と堺市にも夜間中学があると、体のいいやっかい払いをしたとみられるだけに「一貫した慰留」との答弁には疑問の声も出ている。原告弁護団の梁英哲さんは「学校側は退学になったK君がどこで授業を受けるのか、一切配慮していない。そもそも退学届けを受理したこと自体が間違い。これは公務員の不法行為にあたる」と争っていく考えだ。
K君は大阪市内の中学を卒業し、今年4月から通信制の高校に通っている。報告集会で尹さんは「京都市には差別だったことを認めてほしい。親子ともども人間としての尊厳をかけて闘っていく」と話している。支援者を中心に近く「支える会」を発足させる動きも出ている。
次回弁論は7月28日午前11時30分から。
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訴訟経緯
不透明な転学先のフォロー
5年前、京都市立近衛中学に入学したK君はまもなく授業について行けず、次第に学校を休みがちになった。小学校当時本名をからかわれるなどして学校を休みがちだったため、基礎学力が不足していた。登校したいという思いと授業についていけないという現実の板挟みがK君を苦しめ、それがさまざまな身体症状となって現れた。
母親の尹敏栄さんが適応教室などで対応できないかと相談したが、学校側は「人的・物的に不可能」と何らの対策も講じようとしなかった。納得できず反論する尹さんに当時の校長Aは、「K君には就学義務がないので除籍することもできる」と発言した。「頭が真っ白になった」という尹さん。「売り言葉に買い言葉」だった。意に反して自ら除籍を望んだ。しかし、転学先などの説明は一切なく放置されたという。
納得できないまま文部科学省など関係機関に相談したところ、近衛中学への復学を勧められた。A校長は異動になり、K君も復学に同意したため02年から再び通い始めた。しかし、後任のB校長も適応教室などの対応には難色を示し、夜間中学のある大阪市や堺市への転学を勧めてきたことから退学届けを提出し、02年10月から堺市内の公立中学に移った。
(2006.6.21 民団新聞)