掲載日 : [2006-11-29] 照会数 : 7881
<愛知平統フォーラム>3学者によるパネル討論
[ 【左上】伊豆見教授、平岩教授、【左下】李修二教授、金総領委員 ]![](../old/upload/456cf5710f49e.jpg)
李鍾元教授の主題発表を受け、金総領諮問委員をコーディネーターに3人の学者によるパネルディスカッションが行われた。
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韓中の圧力こそ効果 在日も傍観は許されない
伊豆見教授 李教授の言う日朝の3つの問題を並行して解決することが、日本にとっての北問題の解決にはならないと思う。すでにそういう時期は過ぎ去った。北との間で過去の清算、関係正常化の気運は、02年9月の小泉首相の訪朝以降、日本社会からなくなってしまった。
残りは安全保障だが、北が核兵器やミサイルを放棄し、拉致問題を解決しても、世論が支持するかどうか。政府が北との関係改善施策をとるかどうか疑問だ。状況はすでに大きく変化した。
「対話」と「圧力」、言葉を代えれば「飴とムチ」だが、4カ国とも効果のあるものを使わなかった。日米が強硬論で中韓が包容政策だが、日本は圧力と言うよりも拉致政策を一生懸命やった結果として止められなかった。北を国際的孤立から救うのは日米との関係改善しかない。
だから日本が国交正常化や経済援助、米国が体制保障という飴を出す。北を支えてきた中韓が支援をやめ、圧力をかけるというのが一番効果的だ。つまり、圧力は中韓、インセンティブつまりモノをあげるのは日米というように効果的に行う。
では将来4カ国の役割が変わるのか。恐らく変わらない。だから同じ失敗を繰り返す。
核ミサイルの絶対阻止急務
朝鮮半島の非核化はほぼ無理で、核実験をした国が核放棄はしないだろう。非核化を達成する前にやることは北の核開発能力をこれ以上増強させないこと、つまり核ミサイルを持たせないということだ。
それは90年代後半には、日米韓の共通の目標だった。現在はそれが薄らいでいる。安倍総理も核の脅威を最も受けるのが日本だと言っているが、日本政府からの具体的な説明はない。
ブッシュ政権は北の核ミサイルを阻止する熱意がどれくらいあるか。韓国では北が韓国には使わないだろうとの思いがある。北核問題の解決には非常に悲観的だ。
平岩教授 核実験だけを単独で判断するのではなく、7月のミサイル発射を想起してほしい。発射直後の状況は、日本が国連に制裁決議を要求したが、非難決議になった。中国はそれに棄権はせずに賛成した。北からすれば、ミサイル発射で中国が厳しい態度に出ることは予想されていたはずだ。
そもそも中国の影響力とは何か。私が北京にいた96年、北は史上最悪の水害に見舞われ、食糧もなく、苦難の行軍が叫ばれていた時代だった。当時、中国の食糧支援は十分ではなく、「生かさず殺さず」の態度だった。
当時の中朝関係は非常に悪かった。92年に中国と韓国が国交正常化したからで、北の中国に対する信頼感は冷えていた。
中国の影響力限界を露呈も
中国は北朝鮮を隣接地域としての2国間関係、朝鮮半島を舞台にした国際関係の中で見ている。中国の声明などを見ると、必ず両論併記という形をとる。10対0でどちらかが悪いとは考えない。ミサイル発射にしても核実験にしても北に対して自制を呼びかけながら、国際社会には過度に北を刺激するような行動をとるなと言う。国際社会は中国に影響力があると見ているが、中国は北をもてあましている、われわれにも限界があるとメッセージを送っていると受けとめるべきだ。
米中が足並みそろえて北に対峙できるのか。ともに大国で、国益のためには妥協し、手を結ぶだろうが、米中が理念、価値観を共有することは難しい。ブッシュ政権にとって、北よりも中東問題の方が優先度が高い。中間選挙に負けたブッシュ政権は、従来よりも厳しい姿勢はとれない。議長国の中国がイニシアチブをとり、6者協議に臨まなければならない。
ところが、中国は北の核実験に至る前から核保有は大したことない、かなり時間をかけて解決すればいいと考えているフシがある。核実験をした以上、中国に対して時間の観念の共有化、つまりスピードアップを求めなければならない。その意味で東北アジア地域での日韓の役割、存在感は考えなくてはならない。日米韓は中国の役割が大きくなればなるほど協調が必要だ。
李修二教授 北の食糧難に接し、2000年頃から支援運動に関わってきた。同じ人間として、同じ民族、同胞として人道的観点から食えない人を助けたいという一心からだ。人道支援は圧倒的に日本人市民で構成され、在日には広がっていない。大海に一滴たらすような運動だが、日本人と在日が朝鮮半島問題を通して相互理解を促進し、交流の架け橋として毎年北を訪問している。
質のいい日本の粉ミルクは栄養失調の治療にも使われ、生命をつなぐものになっている。かつてはコメ、金を送ろうとしたが、人民に渡らない、軍隊がかすめ持って行くのではないかということで、支援がうまくいかないとの理由から粉ミルクになった。
東アジアの危機的状況とは、北の同胞の生命の安全保障が犯されているということで、その対処がより重要だ。
李鍾元教授 核廃棄には段階がある。凍結が現実的だ。94年の枠組み合意の時点で、「核兵器製造の可能性あり」という話があった。14個の兵器、弾頭があると言われているが、それ以上増やさないというところに米の関心がある。ブッシュの最初の声明は核の移転は絶対許さない、テロリストには渡さないというものだった。米国に届かない核、閉じ込めている核は脅威でない。今回の核実験は安全を確保した上での実験だ、小規模の爆発だったという意見があるが、小型化が進んでいるということかもしれない。それを阻止する。廃棄ではなく、まず凍結にもっていく。
伊豆見教授 うまくいって凍結だが、それも100%ありえないと思う。朝鮮戦争に終止符を打つ、APECに加盟させる、経済制裁を解除すると言うが、プルトニウムが10㌔㌘だった94年段階で、北に対して軽水炉の提供話のほか、50万㌧の重油、30万㌧の食糧を毎年送っていた。プルトニウムが50㌔㌘の今、年間1億㌦をどこも北に出さない。非核化などと悠長なことは言っていられない。今すぐ核を止めなければならない。
私が金正日だったら、2、3回核実験を行い米新政権との取引をする。2、3回核実験を行うと、かなりの確立で弾頭化が可能になるというのが専門家の意見だ。韓国、日本に核ミサイルが届く。6者協議のすぐ後に、南北首脳会談を呼びかけ、「平和体制をつくろう、朝鮮戦争の休戦協定を平和協定に変えよう」という共同提案を米中にぶつける。韓国の与党大統領候補に働きかけ、徴兵制撤廃を公約に掲げさせる。そうすれば、韓国の若い世代の力で5年間は太陽政策が保障されるというシナリオだ。
李修二教授 北核問題を一般市民を巻き込んだ軍事的解決、圧力、制裁、兵糧攻めによって解決できるのか。どこまでも対話、忍耐を繰り返すしかない。
金総領諮問委員 広島、長崎に原爆が落とされ、約3万人の在日同胞が被爆し、そのうち2万人が死亡した。統一したら北の核はわが国の核だという意見が韓国の一部にあるが、核の脅威に鈍感すぎる。各国の利害がからむ冷たい国際政治の中にあっても、6者協議を軸に北核問題の解決に在日の立場から積極的に参与していこう。(編集部注=用語は発言者の意思を尊重しました)
(2006.11.29 民団新聞)