掲載日 : [2003-02-27] 照会数 : 3859
「庶民大統領」の掌 小田川興(前朝日新聞編集委員)
盧武鉉次期大統領が当選を決めた夜、握手をかわす機会があった。大きく厚い掌に触れた瞬間、「仕事師の手だ」と思った。それは額に刻まれたしわとともに、独力で逆境を切り開いてきた半生を雄弁に物語っていた。歴代大統領ではやはり貧農出身の盧泰愚氏の硬い掌、死線を潜った金大中氏の包み込むような掌を思い出す。建設労働も経験し、人権弁護士として民主化運動に奔走した盧武鉉氏は、労働者の活力を感じさせた。
「盧さんの頭は理工系です」と側近はいう。司法試験で猛勉強中、寝ながら法律書を読める読書スタンドを発明し実用新案特許をとった。組織管理のソフトを開発し民主党に売り込んだなどエピソードに事欠かない。「眼高手低」ならぬ、理想も実行力も並外れた「眼高手高」の人なのだ。
政治家としては自ら「合理主義者」というように、ルールを尊重する。鄭夢準氏が土壇場で連合解消を宣言し、絶体絶命と思われた投票日の朝、「負けてもいいじゃないか。結果よりも原則を貫くことが大事だ」と側近たちを逆に励ました。
議員選挙、司法試験とも黒星を重ね、ほとんど「落第人生」だった盧氏。だからこそ、多くの国民は信念を重んじて難関に挑む彼の姿勢に自分の明日を重ねてみるのだろう。旧正月、テレビに夫婦で登場し物まねタレントと掛け合いもした。強権政治の冬は去り、韓国に「庶民の春」の時代が本当に来たことを肌で感じた。
就任式で小泉首相との首脳会談が実現する。両首脳は「歴史」をふまえて、北朝鮮の庶民にも目配りの利いた「東アジア平和への処方箋」を示してほしい。
(2003.02.26 民団新聞)