掲載日 : [2008-10-01] 照会数 : 5487
イルボンで出会いのエッセイ<16> 金益見
不安の秋 友のひと言で…
このエッセイは「出会いのエッセイ」だが、最近、出会いがないので書くことがないなぁと思っていた。
今は、何をしていても12月に提出する博士論文のことばかり考えてしまう。論文を出して博士号が取れても、その後の就職はどうなるのか…。学位があっても就職できない大学院生が多く存在する。私は、将来のことを考えるたび、不安でいっぱいになった。
出会いがないからエッセイは書けないし、論文も前に進まないし、将来は不安だし…。私は母に愚痴った。すると母は、あっけらかんとこう言った。
「あなた毎日出会ってるじゃない。もう少しよく考えてみたら?」
でも母の言葉が入ってこない。不安…。また同じようなことを友人に電話で愚痴った。すると友人はこう言った。
「いっきょん、犬の散歩しながら電話してる?」。私がそうだと答えると、友人は唐突に「いま犬見えてる?」と聞いてきた。
「いま犬はどんな顔してる? いっきょん、犬の散歩してても、自分の心の中ばっかり見てるやろ」。私は犬をよく見てみた。すると犬はもっといろいろにおいたい! 今日は、ボール投げもしてほしい! というような顔をしていた。
「いっきょんの思考が自身のことだけで満たされてると、外界を自分の思考に入れる隙間がないから、一つのことで悩んだりしたら、ずーっと同じ考えばっかりぐるぐる回ることになるねん。でもいっきょんの思考に、他者とか外界を入れる余裕を持ってれば、いつもの散歩だって、犬の顔色一つ見たって、それがいっきょんの思考に入ってきて、ぐるぐる回ってた考えに新しい刺激を生むよ。それを〞余裕〟と呼ぶんねんで、きっと」
私はハッと目が覚めた。そして犬に「やる気ない散歩でごめん」と謝った。
その日は犬の希望通り、ボール投げをして遊んだ。すると、何回ボールを投げても汗をかかないことに気づき、秋の始まりと出会った。「そろそろ長袖を出さなくちゃ!」
出会いで思考が回る。突然やる気が出るとか、論文が書けるとかではなくても、とりあえずエッセイは書けたし、衣替えもした。こうして少しずつ、少しずつ変わってゆくのだ、きっと。
(2008.10.1 民団新聞)