掲載日 : [2008-11-13] 照会数 : 6310
<民論団論>「新東亜」元・北韓統戦部要員証言
<民論団論>「新東亜」元・北韓統戦部要員の証言
根を張る工作員網…無防備な韓国へ警鐘
月刊『新東亜』10月号に掲載された「独占公開、元北韓統一戦線部要員の11年ぶりの暴露‐《呉益済(前天道教教領)は、自発的な越北ではなく拉致》」(以下、「証言」とする)を読んだ。民団新聞(10月1日付)に概要が紹介され、興味を引かれたからだ。
◆拉北の手法を生々しく描く
証言内容は、黄長〓労働党秘書の亡命に激怒した金正日国防委員長から、黄氏に匹敵する韓国の要人を越北させるか拉致するよう指示を受けた工作機関が、北韓に家族がいて誘引しやすい呉氏に白羽の矢を立て、拉致したというものだが、金委員長の憔悴ぶりや狼狽する側近が泣いて忠誠を誓う場面、拉致工作の手練手管などが生々しく描かれている。
証言者は金日成総合大学を卒業し、朝鮮作家同盟中央委員会に所属、金委員長個人を称える資格のあるわずか数人の詩人の一人で、エリート中のエリートであった。呉氏の「越北」経路や登場人物の役職、役割についても証言者の記述は韓国関係当局が把握している内容と一致し、証言内容は信頼度が高いと言う。
しかし、私の関心はそうした本筋よりも、もっぱら北韓の対南工作機関の実態と韓国や在日社会への浸透度にあった。民団組織が経験した06年のいわゆる「5・17民団・総連共同声明」事態、韓国内における親北・従北組織による反社会的な騒乱事態を憂慮してきた立場から、すとんと腑に落ちた気がする。
◆美名に隠れて北路線を踏襲
北韓は当初、黄氏を抹殺すべく国家保衛部・人民武力部・保衛司令部・35号室・連絡部・統戦部・作戦部のほか海外公館まで総動員したが、結局不可能と判断、呉氏の拉致に集中する作戦を立て、統戦部・連絡部・作戦部・35号室など各工作機関が総力を挙げた。
証言に登場する最も重要な機関は統戦部(朝鮮労働党統一戦線事業部)だ。ここは北韓で唯一の、体系的かつ総合的な韓国研究の専門組織と技術的な心理作戦部署などをもっており、対話と協商を企画・主導する「赤化政策の頭脳部署」である。韓国に工作員を浸透させる方式に頼る35号室や連絡部と違い、韓国内の親北・左翼勢力を管理し、それらを動員して韓国に直接影響力を行使し、時には攻撃的にも遂行する。
統戦部交流課の第1課は韓国内の親北・左翼団体を直接管理するところで、全教組・民主労組・汎民蓮・統一連帯を担当するセクションがあり、どの部署よりも韓国事情に詳しい。2課は宗教担当で、キリスト教・仏教・天道教を偽装して宗教交流を掲げ、韓国の宗教団体と相当なレベルで関係を構築している。
以上、かいつまんだだけでも、北韓工作機関と韓国内の親北・従北団体とのつながりが見えてくる。6・15共同宣言実践委員会なる組織の主体も彼らだ。「わが民族同士」の理念や祖国統一などの美名をベールに、北韓の路線をそのまま代弁してきたこれらの団体は、北韓シンパのレベルを超えた、明らかな北韓工作機関の下請け、もしくは出先機関そのものと言えるだろう。
◆文世光事件で新たな材料も
証言はまた、「独裁国家である北韓は、対内的に高い強度の統制を敷き、対外態度を一本化できるが、韓国は違う。韓国政府は野党や市民団体、言論と世論に常に露出されており、評価される。統戦部はこの点を巧みに利用する」と指摘する。その種のものにまったく無防備な民団としても、深く肝に銘じたい。
在日同胞関連については、統戦部に朝総連を担当する56課があり、朝総連とともに朝総連の基地を利用した外貨稼ぎの会社を持っていて、当時、中古商品の輸入をこの56課がほぼ独占していたという程度の言及しかない。
この点については、北韓・連絡部の元エリート工作員で、脱北した金東赫氏が74年8月の朴正煕大統領狙撃事件について語った(『読売ウィークリー』11月16日付)内容で補足していいだろう。
「あの事件は、連絡部の上からの指示ではなく、(総連内に派遣された)連絡部の工作員と総連のある課長が、過剰な忠誠心、英雄心から勝手に引き起こした事件だ。(中略)あの時、実は連絡部では慶会楼を爆破するためTNT火薬80㌔を用意していた。朴大統領が毎年8月15日に慶祝の宴会を開くというので、暗殺しようとしたのだ。ところが、文世光事件でその行事が中止になった。それで連絡部は総連に抗議したのだ」
元朝総連幹部の韓光煕氏は自著『わが朝鮮総連の罪と罰』(文芸春秋)で、北韓の各工作機関が日本に拠点を築き、1960年代末には50ほどに及んだと記した。同じく元朝総連活動家の金賛汀氏も『朝鮮総連』(新潮新書)で、民団・韓国工作を担当する朝総連政治局が、北韓の指示に従って活動する人材を養成・獲得して、北韓の工作機関に引き渡していた、と述べて、その対象は民団系の青年学生に絞られた、としている。
◆民団内部へもあくなき浸透
60年代後半から70年を通して、こうした工作活動は極めて活発であったが、現在はかなり下火になった。だが、韓国で先に摘発された女性スパイの供述でも、日本で活動する過程で朝総連系の在日朝鮮科学技術協会の幹部と接触した事実が明らかにされたように、まだまだ根強いと見るべきだろう。
北韓工作機関に直接指示を受けて活動する在日組織は、朝総連だけではない。韓国内の親北・従北団体と同じように、韓国系を装いながら公然と北韓に奉仕する組織もある。韓国の従北団体と連帯することで、結局は北韓に連なる団体もいくつかある。こうした組織の関係者が民団内部にかなり入り込んでいると見て差し支えあるまい。北韓に甘い政権が終わったことで、今後さらに、北韓工作機関と関連する在日組織の実態が明らかになるはずだ。
民団の5・17事態調査委員会は特別報告書で、「民団を朝総連に奉仕する道具に仕立て上げ、北韓の統一戦線に組み込ませようとする策謀であった」と指摘し、再び民団の指導権を乗っ取ろうとする動きに警戒を怠るな、とも警告したことを思い起こすべきだろう。
李光澤(東京都)会社役員
(2008.11.12 民団新聞)