掲載日 : [2008-12-11] 照会数 : 10216
<北韓>背信重ね自ら袋小路に
[ 閉鎖同然の開城への道(南北出入事務所) ]
[ 開城観光の目玉の一つ朴淵瀑布で(10月24日、海外地区民主平統諮問委員らが訪れた) ]
不毛な「交流遮断」と対南恫喝
北韓は今月1日から軍事境界線の通行を制限・遮断し、開城観光の全面中断や開城工業団地に常駐する韓国側人員の選別追放、京義線貨物列車の運行停止などの措置をとっただけでなく、韓国を恫喝するキャンペーンを展開、これに朝総連や在日従北団体も動員している。「北南関係の解決において前提になるのは、『北核廃棄』ではなく、6・15共同宣言とその実践綱領である10・4宣言を履行することだ」(朝鮮新報12月1日付)。北韓・朝総連などが繰り返し強調するこの論理は、自らの所業を省みないものであり、物事の前提をすり替えるまやかしに満ちている。
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北が実証した「6・15宣言」の問題性
核実験強行で実質無効…韓国攪乱と「利得」のみ追求
金大中大統領と金正日国防委員長が会談し、発表した「6・15南北共同宣言」(2000年)は第2項で、「南と北は、国の統一のための南側の連合制案と北側の低い段階の連邦制案が互いに共通性があると認め、今後この方向で統一を志向していくことにした」と述べ、第4項で「南と北は経済協力を通じて民族経済を均衡的に発展させる」とした。
一般に指摘される「6・15宣言」の問題性は、韓国が積み重ねてきた統一方案と北韓のそれとの決定的な違いをどう接近させていくのか、「国家連合」や「低い段階の連邦制」は少なくとも、双方が軍事国家であってはならず、敵対的であってはならないとの最低限の条件をどうクリアするのか、これらを度外視して「経済協力」をすべてに優先させたことにある。
国家統一の道事実上の放棄
どんなコースをたどるにせよ、「統一」の最終段階は「統一憲法」を制定し、同憲法の下で「統一総選挙」を実施することにある。韓国側の公式的な見解である「国家連合方案」は、1989年に盧泰愚大統領が発表した「韓民族共同体統一方案」と、金大中大統領が主張した「三段階統一方案」の中に含まれている。ともに「統一憲法」と「統一総選挙」を最終段階への手続きとしている。
一方の、1980年に金日成首相が発表した「高麗連邦共和国統一方案」には、肝心な「統一憲法」と「統一総選挙」の項目がなく、連邦制が統一の最終段階になっている。それまでは、北側でも必ず「統一総選挙」について語られていた。それが「高麗連邦制」の提案以降、「統一総選挙」の言葉は完全に消えた。
簡単に言えば、韓国側があくまで「一つの国」になることを「統一」と理解しているのに対して、北韓は将来もずっと南と北が「別々の国」のままで行くことを望んでいることになる。事実、金委員長は金大中大統領との会談の席上、「統一には50年かかる」と発言した。これは事実上の「統一」放棄と言っていい。
従北勢力増殖一時は成功も
「6・15」ついて韓国側の多くが抱いてきた疑問や懸念は、その後の北韓の態度によって、現実問題として深刻化した。北韓は「わが民族同士の理念」を盾に南側の批判や要求を一切受け付けない自分勝手な立場を合理化し、「経済協力」によって南から援助をとことん引き出すだけでなく、6・15宣言実践の名のもとに従北勢力の増殖と統一戦線の拡大を図り、韓国の統治権力を空洞化させようと目論んで一時的には成功した。
5兆から7兆ウォンの膨大な資金を投じた金大中・盧武鉉大統領の対北融和政策は結局、2006年10月の核実験強行とその後の核兵器保有宣言によって報われたに過ぎない。これは「南北基本合意書」(「南北間の和解と不可侵および交流協力に関する合意書」)と「韓半島非核化宣言」(「韓半島の非核化に関する共同宣言」)に対する弁明の余地ない背信である。
核保有によって南北関係を根本的に変えてしまった北韓は、その必然的な帰結として6・15宣言を無効にさせた。核実験が00年の6月15日よりも前に行われたとすれば、「6・15南北共同宣言」はあり得なかった。
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実効性の裏付けない「10・4宣言」
「即時履行」は筋違い…誠意ある対話が先決
国際法上でも強要はできぬ
金・盧両政府の融和政策は北韓の背信・増長を招いただけとして韓国国民の批判が強まっていた昨年10月、盧大統領と金正日国防委員長との間で「南北関係発展と平和繁栄のための宣言」、いわゆる「10・4南北首脳宣言」が交わされた。同宣言には「6・15共同宣言に基づいて南北関係を拡大発展させていくために」として、次のような「合意」がある。
南と北は軍事的敵対関係を終わらせ、韓半島で緊張緩和と平和を保障するために緊密に協力し、終戦を宣言する問題を推進するために協力する▽核問題解決のために6者協議の9・19共同声明と2・13合意が順調に履行されるよう共同で努力する▽海州地域と周辺海域を包括する「西海平和協力特別地帯」を設置し、共同漁労区域と平和水域を設定する▽開城工業地区第一段階建設を早期に完成させて第二段階の開発に着手する▽開城‐新義州鉄道と開城‐平壌高速道路の改補修問題を協議・推進する▽安辺と南浦に造船協力団地を建設する、などだ。
この「宣言」には、「基本姿勢」を確認した「6・15」とは異なり、具体的な経済プロジェクトの「実施要綱」とも言うべき特質がある。しかも、所要資金は14兆ウォンを大きく超える莫大なもので、それを韓国が一方的に負担しなければならないのだ。
また、事業ごとの経済的合理性ばかりでなく、南北間の合意や信義を簡単に覆す北韓の体質からして、安全保障一つをとってみても事前に解決すべき問題があまりに多い。それは、今年7月の「金剛山射殺事件」のいきさつや開城工団の事実上の封鎖などで明らかであろう。
「10・4」は、財源拠出の権限を任意に行使できない盧大統領が、任期末に駆け込みで約束したままで終わっている。外交的に有効となるためには、韓国国会での批准が必要であるにもかかわらず、盧政府時代も与党が多数派でありながら批准作業は行われなかった。
したがって、「宣言」は国際法上も、常識としても、そもそもが「強要」できる性質のものではない。「完全かつ即時」の実施には応じられないとする李明博大統領の立場は、韓国国民に対する責任からしても正当だ。
資金負担側の支持こそ必要
「10・4宣言」にはそれでも、北韓の核廃棄に向けて6者協議を円滑に推進させ、平和的な方向へ導こうとする意図があったと言えなくもない。「10・4」の履行を求めるなら、北韓はそのような意図を汲み、資金を負担する側の韓国国民の支持が得られるよう腐心するのが筋である。
経済条項以外の例えば、「西海平和協力地帯」や「終戦宣言」の問題など、具体的な問題を指定して韓国側に協議を求めるのも一つの方法だ。そこから、生産的な結論が生まれる可能性がある。
しかし北韓は、李大統領が就任すると間もなく、「宣言履行」を恫喝しつつ要求し、「李明博輩党」「民族反逆者」など一方的な非難を繰り返すだけだった。北韓はなぜ、建設的な行動が取れないのか。その理由はこうだろう。
「西海平和協力地帯」や「終戦宣言」の論議に入ると、北韓の持つ「核兵器」が必ず問題になり、これを解消しない限り議論は進まない。こうしたことを北当局自身がよく分かっているのだ。
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履行すべきは「基本合意」「非核宣言」
平和的枠組みの原点…関係改善へ核廃絶こそ急ぐ
正式発効後に一方的な中断
ここで、91年12月に両政府間で調印され、翌年2月に発効した「南北基本合意書」と、「韓半島非核化宣言」について、やや詳しく触れるべきだろう。
「南北基本合意書」は、双方が相手方の体制を認めて平和的に共存する道を選択、本格的に和解の道を歩み軍事、経済、社会・文化など諸分野で協力する枠組みを定め、離散家族の再会はもとより、住民の自由な往来と接触、鉄道・道路の再連結などをうたった。
「韓半島非核化宣言」には、「核兵器の製造・実験・搬入・保有・貯蔵・配備・使用の禁止」「核再処理および濃縮施設の保有禁止」「南北核統制共同委員会の構成・運用」「非核化検証のための相互同時査察の実施」などが盛り込まれている。
この二つは「6・15」や「10・4」と異なり、南北政府の正式手続きを経て発効したものだ。これは基本合意書第25条の、非核宣言第6項の「南と北の各自必要な手続きを経て、その文書を交換した日から効力を発生する」との規定に基づいて行われた。
しかし北韓は、92年11月には分野別共同委員会を一方的に中断させて基本合意書を形骸化させ、非核化宣言に基づいた南北各協議も同年末に打ち切った。北韓が基本合意書と非核化宣言を順守・履行し、核開発を放棄して南北間の平和体制づくりに応じていたならば、韓国や国際社会からの支援によって、数百万ともされる餓死は避けられた。きわめて重要な背信だったのである。
正式に発効した基本合意書と非核化宣言を平然と踏みにじっている北韓に、「宣言履行」を求める資格はない。
耳傾けるべき李大統領発言
李明博政府は、重大な問題点を含んでいるにもかかわらず、「6・15宣言」や「10・4宣言」そのものを否定せず、基本合意書や非核化宣言とともに、「その精神を尊重し、実際的問題について具体的に協議しよう」という立場を再三明らかにしている。
北韓・朝総連がいくら口をすっぱくして、「北核廃棄」が南北関係改善の前提にならないと主張しても、現実には核兵器が南北関係と北当局自身の足かせとなってきた。北韓が核兵器願望を捨てない限り、2000万民衆に活路はなく、「宣言履行」や民族の再統一が進むことはあり得ない。韓国国民の大多数はもちろん、国際社会がそれを決して許さないことを知るべきだろう。
体制維持のために、大量の餓死者を放置してまで進められ、今後も民衆を犠牲にする核兵器計画こそ、完全に放棄されるべきだ。「先軍政治」の敗北と統治力のさらなる衰退を恐れるあまり逡巡しても、それはすでに時間の問題になっている。北韓当局は、李大統領の発言に真摯に耳を傾け、核兵器の早期廃棄にまじめに取り組むべきだ。
(2008.12.10 民団新聞)