掲載日 : [2009-01-01] 照会数 : 8208
<釜山−福岡>超広域経済圏構想が始動
[ 世界都市をめざす釜山市 ] [ アジアの拠点めざす福岡 ]
行政交流協定20周年・09年友情の年
「2009釜山‐福岡友情の年」両市は行政交流協定を締結してから20周年になることを機に、国境と海峡を越えた地域間連携のモデルからさらに一歩進んで、共同発展をめざす広域経済圏の形成に本格的に乗り出す。韓国と日本はきわめて密接な関係にありながら、歴史認識や領土の問題をめぐって不協和音が絶えない。そんな両国を望ましい未来志向の軌道に乗せるうえで、両市は牽引車となる意欲に満ちている。合言葉は「交流から協力へ、協力から共同体へ」。これは日本社会に、多文化共生モードを押し広げ、東アジア共同体構想を促進するテコともなりそうだ。
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韓日共栄の未来引っ張る
協力から共同体へ…「東アジアの拠点」めざす
他の国際会議に付随しない、独立した形では初めての韓日中首脳会談が福岡県太宰府市(08年12月13日)で開かれたのは、韓日両国、韓日中3国、さらには東アジア地域の今後にとって象徴的だった。太宰府市は福岡市の経済圏にある。その福岡市は、古くから韓半島・大陸との交易で栄えた歴史を持ち、韓国東南部と全九州を取り込む超広域経済圏、さらには中国・上海とも連携した豊饒の三角地帯を築く「アジアの拠点都市」として、「アジアと一体化した発展」を志向している。
一方の「世界都市」構想を掲げる釜山は、韓国政府の国土計画でも海洋指向型のゲートウェイとして発展するため、産業・物流・観光基盤の国際交流地帯造成が明示されてきた。両市の未来図には、国際交流圏形成の拠点という共通項がある。李明博大統領が提唱した韓国東南部‐全九州の超広域経済圏構想は、これを強力にバックアップするものだ。
韓日中首脳会談は、今年は中国で、来年は韓国で開くことが決まっている。開催地が上海、釜山と続けば、釜山・福岡を中心とした豊饒の三角地帯・「環黄海経済圏」のイメージアップとその具体的な進展に貢献するだろう。
韓日両国の関係は決して、ソウルや東京の中央レベルだけで成り立っているのではない。共同繁栄を築こうとする釜山市と福岡市の試みは、韓日関係を平和共存からさらに進んで、共生発展へと導く壮大な実験とも言える。その始発点が89年の行政交流協定だった。以来、職員の相互派遣、各部局の行政交流、市職員の体育大会のほか、婦人・青少年、スポーツ・文化など市民参加型の交流を推し進めてきた。約80の市民団体が姉妹提携を結んでいる。
人の行き来は年に75万も
福岡市が市民とともに90年から始めた「アジア・マンス」は、毎年9月の1カ月間、アジア文化賞の授賞式を中心に、アジア地域の映画・音楽、伝統・慣習、自然・風物・食などをテーマとした催しでにぎわう。韓国関連の比重が高く、釜山からも多様な参加がある。
また、環境問題を通して両市民間の共同意識を高めるために、93年から「世界環境の日」に合わせ「ラブ・アース・クリーン」を展開し、玄界灘に接する海岸線をはじめ河川や山間部の清掃活動を同時に実施してきた。
相互理解と友好増進は、人が行き来し、会い、対話することなしには始まらない。両市を隔てる距離は200㌔に過ぎないのだ。福岡にとって釜山は大阪より近く、釜山にとって福岡はソウルより近い。往来する人は年々増え続け、2000年に54万人強だったものが2007年には75万を数えた。1日約2050人の計算だ。
海峡を挟んだ地域協力にスウェーデンとデンマークの成功例がある。それを念頭にオスロ大学のある研究者は、「福岡と釜山をなぜ、一つの観光地として世界にアピールしないのか」と指摘していた。両市の重層的な交流の進展は、釜山市と福岡市は世界・アジアのなかで「一つのエリア」だとする自覚を生み、連帯・共同の意識を高めた。
原点は98年共同宣言に
この試みの原点は、どこに求められるのか。
行政交流協定の締結前年の98年に、金大中大統領と小渕恵三首相が署名・発表した「韓日共同宣言‐21世紀に向けた新たな韓日パートナーシップ」とこれを具体化した「行動計画」にあると言えるだろう。そこには、韓日両国をしてより高い次元の善隣友好関係に引き上げる、あらゆる方策が盛り込まれている。
「韓日共同宣言」・「行動計画」は、歴史認識や領土などの問題をめぐる関係悪化で、色あせたかに見える。しかし、全国の至るところで、歴史事跡や地場産業など地域の特性を活かした交流・協力が積み重ねられてきた。福岡・釜山はその先頭走者なのだ。韓日関係の健全な発展は「宣言」・「計画」の具体化にある。それは中央政府だけに任せてはおけない、地方独自の取り組みが新しい潮流をつくる‐こうした意識が強く、またそれを実行に移す条件がどの地域より豊かだったということでもある。
障害越えて着実な前進
ここまでの道のりは必ずしも順調だったわけではない。歴史教科書問題や独島(竹島)問題が浮上する度に、足踏みしたこともある。昨年10月の「友情の年」宣言式も実は、独島問題をめぐる双方の世論が硬化したことを配慮し、延期されてのことだった。国と国のアツレキはそう簡単になくならない。
また、中央政府の積極的な支援を求めようとする釜山に対して、福岡は地域の取り組みを重視しており、「融通を利かせて」「早く早く」の釜山と、「慎重のうえにも慎重」「確認また確認」の福岡とで、スタイルの違いもある。しかし、両市は個々の問題を全体の流れのなかで解決し、小さな後退はあっても着実に前進することで、すでに後戻りできない段階にまで実績を積み上げてきた。
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経済活性化のテコに
自由な移動・居住も視野
両市フォーラム 期待の声
釜山市と福岡市による共同の取り組みには、韓日関係の豊かな未来図を先取りするキーワードで充満している。この間の「釜山‐福岡フォーラム」から主な発言を拾ってみよう。
「両地域の最重要課題は、協力を通して利益を生み、その利益が地域発展に必要と見なされる方策を見いだすことだ。製造業では両地域とも輸送用機器や鉄鋼などが主であり、産業内貿易という形で相互利益を確保できる基盤はある。情報交流促進の方向さえ確立されれば、経済協力がいっそう活発になるだろう。ビジネスマッチング・センターの設立も有益だ」(李棖鎬・釜山銀行頭取)
「各種の法的整備、規制緩和によって両地域の自由な移動、就職、居住が保障されるべきだ。両市が共同出資する『国際交流財団』の設立を求めたい」(張済国・東西大日本研究センター所長)
「国際人育成にも最適地」
「福岡と釜山は国境を感じさせない地域で、国際人育成に最適だ。大学間コンソーシアム(共同体)では夏休みに相互に100人ずつが訪れて、1週間を過ごす企画を考えたい」(梶山千里・九州大学総長)
「小中高生の『日韓海峡サマースクール』『船上スクール』や『大学間コンソーシアム』を通じてキャンパスの共有を提案したい。韓国語、日本語の履修を両地域で義務化することも考えてよい」(松原孝俊・九州大学韓国研究センター教授)
「外国人看護師の受け入れや外国人医師による治療など、韓国が先行している医療サービスの分野で日本が学び、連携を考えることが可能だ。地域FTA(自由貿易協定)の実現は難しいかも知れないが、お互いに独立した姿勢で自国の構造改革を進め、経済関係を活性化させるテコになり得る。検討の価値がある」(深川博史・九州大学大学院教授)
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連帯へ行政・民間が両輪で
共同事業、夏に策定
投資呼び込みヘ支援組織
昨年10月から11月にかけて、釜山・福岡両市にとって重要な催しが相次いだ。まず10月20日に福岡市で、「釜山‐福岡超広域経済圏形成およびアジアゲートウェイ2011共同キャンペーンに関する宣言文」を公式発表し、両市長や行政、商工会議所の関係者で構成される「釜山‐福岡経済協力協議会」を立ち上げた。
同協議会は、李明博大統領が提唱した韓国東南部(釜山市・蔚山市・慶尚南道)と全九州の超広域経済圏の形成に向け、中枢的な役割を担うことになる。両市はすでに共同研究用役を共同発注しており、今年2月には釜山で中間報告会を開くのに続き、調査・研究を重ねて8月には具体的な共同事業を決める予定だ。
観光・食・大学・医療・映画祭などのほか、自動車部品など製造業、IT産業でも連携が見込まれている。合わせて設置された「アジアゲートウェイ2011実行委員会」では、両市共通のロゴマーク確定や映画祭・音楽祭の共同開催、プロ野球・サッカー交流戦などを実施する方向で検討に入った。両市は、2011年の韓国高速鉄道KTXの全通や、九州新幹線鹿児島ルート開通を交流拡大の弾みにしたい意向という。
釜山市で10月30日、九州全域から29の市民団体が参加して「釜山‐福岡NGO協定」が結ばれた。超広域経済圏の形成を後押しするために、市民の交流ネットワークを構築し、韓日文化体験プログラムの運営、ホームステイなど青少年交流の拡大のほか、体系的な交流支援を行う広域市民交流センターの設立を推進する。
一連の行事のメインとして、10月31日には釜山市で「2009釜山‐福岡友情の年」の宣言式が行われた。宣言で両市は①韓日両国の伝統的友好と協力のもとに人的交流を増大し、市民間の相互理解と友誼を図る②双方の重要行事に積極的に参加し、民間分野の自由な交流活動を積極的に支援する③双方の映画祭において相互交流可能なプログラムを開発、協議・推進する④芸術・美術・スポーツなどの交流を通して市民の文化生活向上に寄与するため、相互関連団体間の交流を推進する−−などをうたった。
観光・医療・食・ITも
続く11月1日、同じく釜山市で、韓日海峡圏の協力の在り方を探る「第3回釜山‐福岡フォーラム」が開催された。同フォーラムは両地域の産学各界代表22人で構成されるもので、両国政府への提言を盛り込んだ「釜山宣言2008」を発表した。同宣言の骨子は次の通り。
相互投資の促進へ支援組織を構成▽経済協力の制約および促進要因の調査研究実施▽両地域のインターンシップ協議会の情報交換▽大学間コンソーシアムと経済産業界による議論の場の設置▽充実した医療提供体制に向けた医療関係者の情報・意見交換▽マスコミを中心に人的交流を促進するための共同イベント開催▽韓日首脳会談の釜山、福岡での開催および両国首脳による「釜山‐福岡経済協力体」形成についての関心表明を希望。
経済協力分野では、若い労働力を確保するためのインターンシップ協議会、お互いに投資を呼び込むための支援組織を釜山、福岡につくることとし、昨年9月に両地域の24大学が参加して発足した大学間コンソーシアムにも、研究や就職など多分野で産業界と協議するよう提案した。ほかに、新型インフルエンザなどの感染症を水際で防ぐ体制づくりやマラソン大会の提携も打ち出された。
行政と民間が車の両輪のように調和を持って動いており、フォーラムが車軸の役割を果たしている。超広域経済圏構想もフォーラムの提言によるところが大きい。各関係者には、お互いの経済的な利益を確実にするためにも、共生・共栄の基盤をより広く整えようとする意思が鮮明だ。
(2009.1.1 民団新聞)