掲載日 : [2009-01-01] 照会数 : 5114
なるか南北関係の〞再出発〟
[ 金剛山観光地域に通じる道路(江原道・高城)。昨年12月から北側によって事実上遮断されている
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[ 韓国・坡州の都羅山展望台からみえる北韓の開城工業団地 ]
「6者会談」中断、米新政権発足
李明博政府との公式対話拒否、金剛山観光客射殺事件、開城観光の全面中断、開城工業団地常駐人員の大幅制限、陸路の南北往来「遮断」など、北韓側の一方的な強硬措置により、南北関係は、昨年悪化の一途をたどった。南北関係の打開へ、非核化・緊張緩和・平和制度化と共生・共栄の経済協力拡大を通じた南北経済共同体の実現を呼びかけている李明博政府との対決姿勢を、北側が転換し、一日も早く当局対話に応じることが望まれている。(編集委員・朴容正)
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既存4合意の尊重・履行
「核廃絶」が最優先課題…北経済の再建にも不可欠
「基本合意書」と非核化共同宣言
北側は南北交流・対話の「全面遮断」について、原因は「全的に李明博政権の反北対決姿勢にある」と責任を転嫁し、「北南関係の解決において前提になるのは『北核廃棄』ではなく、6・15共同宣言(00年、第1回南北首脳会談)とその実践綱領である10・4首脳宣言(07年、第2回南北首脳会談)を履行することだ」と繰り返し強調、「非核・開放・3000構想」=「共存・共栄の対北政策」の転換を要求している。
だが、韓国国民は07年12月の大統領選挙で、「太陽政策」の無条件踏襲には反対を表明した。「6・15」と「10・4」の全面履行を公約に掲げ、「太陽政策」の象徴である京義線都羅山駅から公式遊説を開始した鄭東泳候補は、532万票という大差で、「非核・開放・3000」を提示した李明博候補に敗れた。国民は10年間(金大中政府、盧武鉉政府)の「太陽政策」の見直しを求め、李明博候補の「対北政策」を選択したのだ。
北韓が即刻履行を要求している「10・4」は盧武鉉政府の末期に、大統領選挙を間近に控えて、駆け込みで行われた南北首脳会談で発表されたもの。その核心は、北韓核問題が未解決のもとでの、所要資金14兆ウォン以上とされる大規模な経済プロジェクトの提供(対北支援)であり、政権交代に伴い、根本的再検討が不可避だった。
「非核・開放・3000」は、韓半島の平和を定着させ、共生の実績を通じて経済共同体形成の条件を作り、南北間の人道的問題を解決しながら平和統一の基盤を整えようとするもの。
李明博政府は、「南北基本合意書」(南北間の和解・不可侵および交流協力に関する合意書。92年)に基づき、北韓核問題の解決にあわせて平和協定の締結などを通じた南北間の軍事的緊張緩和と信頼構築を推進、恒久的平和定着をめざすとしている。
基本合意書は、段階的軍縮実現の一環として核兵器を含む「大量殺傷兵器と攻撃能力の除去」をめざし、その付属合意書でも「南北は韓半島の非核化に関する共同宣言を誠実に履行、順守する」と明示している。
このため李明博政府は、「6・15」と「10・4」について、重大な問題点を含んでいるにもかかわらず否定はせず、基本合意書や非核化共同宣言とともに、「その精神を尊重し、実際的問題について当局間対話を通じて具体的に協議しよう」と北側に呼びかけてきた。
ちなみに南北双方は91年12月に、分断後初の南北総理会談を通じて「南北基本合意書」に加えて、「核兵器の生産・保有禁止」「再処理施設、ウラン濃縮施設の保有禁止」などを定めた「韓半島非核化共同宣言」に署名、翌92年2月に発効させている。
「韓半島の非核化」は南北間の正式合意であり、南北双方、つまり「わが民族同士」が、基本合意書と合わせて、その順守・履行を、内外に約束したものだ。
だからこそ2000年の南北首脳会談の時、金大中大統領は、基本合意書の重要性を指摘、分野別共同委員会の再稼働の必要性を強調した。金大中元大統領は昨年『月刊朝鮮』10月号掲載のインタビューで「基本合意書には南北が扱うべき重要な問題が網羅されている。重要な章典だ。実践されなければならぬ」と改めて強調している。
相互信頼構築し平和体制作りへ
北韓当局は、「わが民族同士」「民族(南北)共助」を叫んできた。本当に韓半島の平和・安全と同胞の生活向上を願い、「わが民族同士」をなによりも大事にするのであれば、基本合意書と非核化共同宣言の基本精神を、今一度思い起こし、南北当局対話を全面的に再開・推進、相互信頼関係の構築に力を注いで当然である。
南北間合意の尊重および同胞愛を欠いた「わが民族同士」の強調は空虚な標語でしかない。
南北同胞および海外同胞が切望してやまない「南北統一」は、平和・民主・自主を基本原則として推進され、「南北社会の等質化」(経済発展と平和・民主・人権の価値観共有)を図るものだ。
真の南北統一の実現には、非核化を通じた南北間平和体制の制度化に加えて、北韓自身の改革・開放を通じた経済の再建=近代化と民主化推進が不可欠である。
北韓経済で最大割合を占める軍事費の削減と、外部からの大規模かつ持続的な経済協力がなければ、経済の再建は望むべくもない。「先軍政治」のもとの核兵器開発固執が、事実上破綻した北韓の経済再建の最大の障害となっている。
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北の対決姿勢転換がカギ
「協議」提案に呼応を…対南中傷・恫喝中止して
経済協力推進へ環境整備が緊要
北側の一方的な強硬措置により冷え切った南北関係を改善し好転させるためには、なによりも北韓側の対南姿勢の転換が不可欠である。そもそも、李明博政府に対する北韓の言動は、「相互尊重を基本に、南北が諸分野での協力と交流を活性化させ互いの信頼を固めていく」「紛争は対話と交渉を通じて解決する」という「6・15」および「10・4」の精神にも反する。
まず、北側は李明博政府に対する一方的な非難、聞くに堪えない数々の誹謗中傷を即刻中止し、南北当局対話の再開に速やかに応じ、核問題や経済協力など南北間の緊急懸案について真摯に話し合うべきである。 北側は、民主的選挙により選出された李明博大統領(国家元首)に対して、官製メディア・組織はもとより、韓国内の従北団体をも動員して「独裁者」「逆徒」「売国奴」などと最大限の罵詈雑言を浴びせてきた。
その一方で北側は、韓国の民間メディアによる金正日委員長健康不安などに関する報道や民間団体による金正日体制批判ビラ散布について、官製メディア・組織を総動員して「われわれの最高尊厳をあえて中傷することは、われわれの体制に対する正面からの挑戦だ」などと強く非難・恫喝を繰り返してきた。
北韓は金正日委員長の健康問題を「最高機密」にしている。このため、長期間動静が伝えられず、北韓創建60周年行事にも出席しなかったことから、後継者問題や今後の体制問題とあわせて注目され、さまざまな憶測や推測を呼んだ。だが、金正日委員長が昨年夏に脳卒中に見舞われ、10月末にフランスの医師が平壌で治療にあたったことは事実だった。
第2に、北韓は「6・15」の具体的成果であり、南北和解と経済協力の象徴とされてきた開城工業団地の縮小ではなく、南北間の既存合意どおりにもっと多くの韓国企業が安心して進出できるよう環境の整備にこそ力を注ぐべきである。
「10・4」も開城工団の早期完成をうたっている。「10・4」合意とは正反対に、一方的に操業が制限され、いつ中断されるかもしれないという状況で、大きな危険を冒してまで新たに進出する企業はない。もし、北側の恫喝のように操業中止・閉鎖にまで進めば、南北経済協力事業は事実上ストップされるだろう。
開城工団が結局、「失敗」ということになれば、北側が強く望み「10・4」に盛り込まれた韓国からの新規大型経済協力プロジェクトの実施は、不可能となる。北韓経済の再生は、さらに遠のく。
第3に、北韓には、「核完全廃棄」による韓半島の平和構造構築と北韓経済再建に向け、南北当局対話の再開・推進とあわせて、核施設無力化・核計画申告と検証および見返り支援を柱とする「第2段階の措置」で足踏みしている「6者会談」の誠実推進が求められる。
北韓は、今月20日に発足する米国のオバマ新政権(8年ぶりの民主党政権)との交渉に期待をかけているとされる。だが、オバマ次期大統領は、昨年11月の李明博大統領との初電話会談で「緊密な韓米関係を一層強化したい。両国の同盟関係強化がアジアの平和と安定の礎石になる」と表明、懸案の北韓核問題についても両国間の緊密な協議を通じて解決していくことで合意をみている。
第4に、李明博政府には、北韓を南北当局対話のテーブルに導くために、「共生・共栄の対北政策」が正しく理解されるよう多くのチャンネルを通じて北側に働きかけるとともに、既存合意の履行協議のための対話の無条件開始をねばり強く呼びかけていくことが望まれている。
同時に、韓国国内においては、北韓および従北勢力による「南南葛藤」助長、国論分裂策動に乗せられることなく、「韓半島非核化と非核・民主統一国家の実現のために北韓の核開発・保有を絶対に容認しない」との決意を、国会が全会一致で表明し、韓国国民の総意として北韓と世界に知らしめることが必要だ。
700万在外同胞も「非核化」声大に
700万在外同胞も、とりわけ、北韓の最大の海外工作・宣伝組織のある日本において、民団はもとより総連系同胞を含め全同胞が核開発・保有に「ノー」の声を、もっと高くあげねばならない。
200万人を超える在米同胞には、オバマ新政権が「核を持つ北韓とは国交を正常化しない」との目標を再確認し、北韓に対して「核兵器がすべて廃棄されるまで米政府は国交正常化しない」と明言するよう促すことが望まれる。
ちなみに、総連は、北韓の最高指導者が「非核化共同宣言」を一方的に白紙化し、数百万同胞の餓死を承知の上で強行した核・ミサイル開発と核実験を称賛した。今も「核保有」を熱烈に支持している。
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悪化一途の08年
対話拒否し交流遮断…北「共生・共栄政策」を歪曲
北側は、「李明博政権とは北南関係と統一問題を論じる一顧の余地もない」(祖国統一平和委員会、11月22日)と南北当局間対話を全面拒否している。昨年末には「6・15共同宣言」後の南北交流の象徴であった金剛山観光と開城観光、京義線貨物列車の運行を一方的に中断させ、軍事境界線の通行も事実上遮断。同時に南北協力の模範例視されてきた開城工業団地事業を制限し、今後さらに中断・閉鎖もありうることを示唆した。
昨年2月に発足した李明博政府の掲げた南北共生・共栄のための対北政策「非核・開放・3000」(北韓の核放棄過程に相応して経済協力を加速化し1人当たり所得3000㌦まで引き上げられるよう積極的に支援し、南北経済共同体の形成をめざす)について、北側は早くから「6・15共同宣言」、「10・4首脳宣言」を真っ向から否定する対北対決政策であり「反統一宣言」だと決めつけ、非難を繰り返してきた。
のみならず、李大統領を名指しし「対決狂信者」「独裁者」「逆徒」「売国逆賊」と暴言をエスカレートさせた。ばかりか「すべての戦いを『反李明博闘争』に集中させよう」と韓国および海外の従北団体に呼びかけている。
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李明博大統領は、12月5日に青瓦台で行われた民主平和統一諮問会議・運営委員団との懇談会で、南北関係が悪化していることに関し、「政府は南北の真の和解と関係発展の礎石を築くことに最善を尽くす」と改めて強調した。
李大統領は「南北基本合意書であれ、6・15共同宣言、10・4首脳宣言であれ、南北が直接会って対話すべきだ。対話をすれば、北韓もわれわれの真剣な意志がわかるだろう」と述べた。特に「南と北の同胞が普遍的な価値に立脚し、最低限の人権と人間らしい生活を享受することが私たちの目標だ。同じ民族として北韓が苦しければ助けなければならず、助けるべきだ」と力説している。
李大統領は、2月の大統領就任辞では「南北関係は今までより、もっと生産的に発展しなければならない」と強調。「南北の政治指導者はどのようにすれば7000万同胞の生活を良くできるか、どのようにすれば互いに尊重しながら、統一の門を開けるのか、意見交換しなければならない。南北の首脳がいつでも会い胸襟を開いて話しあうべきだ」と金正日国防委員長に決断を促した。
また、7月の第18代国会開院演説でも「北韓の非核化を最優先にしながら、南北双方に利益になる共生と共栄の道を切り開いていく。韓半島の真の和解と協力のためには北韓核問題の解決が先決課題だ」とあらためて力説した。
同時に「南北当局の全面的な対話が再開されなければならない。過去に南北間で合意した7・4共同声明(72年)、南北基本合意書、韓半島非核化共同宣言、6・15共同宣言、10・4首脳宣言をどのように履行していくのか、北側と真摯に協議する用意がある」と対話再開を提案、北側の呼応を再度促している。
(2009.1.1 民団新聞)