掲載日 : [2009-07-01] 照会数 : 5602
<布帳馬車>「東の地中海」によぎる悪夢
「名も知らぬ 遠き島より 流れよる 椰子の実ひとつ」
言わずと知れた愛唱歌「椰子の実」(島崎藤村作詞)である。愛知県伊良湖岬の恋路ヶ浜を舞台にしたこうした叙情は、日本列島の波打ち際からもう縁遠くなった。東海(日本海)側の汚染は特に深刻だという。
日本のメディアはよくペットボトルや網などの漁具、注射器など医療系廃棄物まで、大量の漂着ゴミが環境や景観を破壊していると問題にする。その際、ハングルなどの商標を示しながら、ゴミの大半が韓国など国外から流れ着いたかのように印象づける傾向が強い。
だが、実態はかなり違う。財団法人・環日本海環境協力センター(富山市)が3年前に、全国43カ所で調査したところ、外国からと特定できたのはわずか5%だ。専門家たちは、地域差はあるとしながらも、「日本人が日常生活のなかで捨てたものが大半」と指摘する。
そうでなくとも、独島や海域呼称の問題に北韓の核・ミサイル挑発が加わって、東海の波濤は高まる一方だ。「ゴミ問題で不必要に波立てるな」と言いたくもなる。しかし、言葉が詰まった。ボートピープルが陸続と押し寄せる悪夢がよぎったのだ。
富山県が作成した、列島が上で半島・大陸が下になる「環日本海諸国図」に見るこの海は、まさに「東の地中海」である。古代は夢多き人々が活発に移動し、文化が行き交う豊かな海であった。地図には「古代のロマンを再び」との思いが託されている。未来の夢が悪夢に掻き消されないよう、陽が沈む彼方に願う思いは切である。(D)
(2009.7.1 民団新聞)