掲載日 : [2009-10-28] 照会数 : 5692
<女性コラム>会いたい人 今いずこ
この夏、一年遅れで新婚旅行に出かけた。目指すは私が10歳まで過ごした青森県。ETCもカーナビもない愛車ワゴンRに乗り、長身の夫婦が下道で青森を目指すというのは随分息苦しい話だが、心ひかれた場所にふらり立ち寄る6泊7日の旅は案外忙しかった。
その一つ、道中、母の希望で人探しをすることになった時の話。昔、岩手県の小さい町に友人の弟が住んでいたらしい。彼を捜し出し友人の消息を聞きたいというのだ。
母の大学時代の友人だった在日の彼女は、本国に嫁いで以来連絡が途絶えたそうで、携帯などない時代だからよくある話かもしれないが、乗りやすい私はすっかり探偵気取りで捜索に乗り出した。
まずは駅前の古い旅館を訪ねる。昔を知っている人がいるかもと予想したからだ。すると母と同じ年代の小柄な女将が、一人心当たりの男性を教えてくれた。思わぬ幸先の良さに気を良くし世間話をしていた時「会いたいと思う時に会えた方がええから」と意味深な言葉が胸に残った。その後、旅館を出て、教えられた通りにあちこちを訪ね歩いたが、残念ながら当たりはなく、結局素人の拙い捜索は空振りに終わってしまったが、孝行娘と思ってくれたのか先々で親身になってもらえたのは有難かった。
町を後にしながら、母と同い年のはずの彼女がどこかで元気に暮らしていて、いつか会えたらいいなと思うと同時に、女将も会いたい人と会えたらいいのになと考えた。そして私にもそんな日がくるのだろうか。
李慶姫(神奈川県・歯科医師)
(2009.10.28 民団新聞)