すぐにも被災地へ…急を要する心のケア
「もうじっとしていられない。いますぐにでも被災地に飛んでいきたい」。16年前、阪神・淡路大震災を身をもって体験した兵庫県内の同胞から悲鳴にも似た叫び声が聞こえてきた。寒さに震えるなか、炊き出しに身も心も温められた体験を持つ当事者だからこそ被災地の苦しみが理解できる。いまこそ恩返しをしたいという思いはみな同じだ。各地の被災体験者のほか、支援ボランティアにも加わってもらい、いまなにができるのか、なにが求められているのか聞いた。
◆家の毛布持参で
金彩玉さん(婦人会兵庫県本部会長)阪神・淡路大震災では温かい食べものが、心を温めてくれたし、民族を超えた親しみがあった。その思いは今も忘れない。いますぐにでも寒さのなかで、泥まみれになっている皆さんのところに飛んでいきたい。家にある毛布を持っていきたい。私たちにできること、必要なものがあれば、民団中央本部に伝えてください。若い婦人会の会員のなかから「私が行く」という声があがっている。私たちが当時、助けていただいた以上のことを、生きている者として精一杯やらせていただく。どうか皆さん、元気を出して、皆で力をあわせて待っててください。
李甲出さん(77、婦人会兵庫本部常任顧問)神戸が震災に見舞われた当時、婦人会播但支部の会長を担っていた。炊き出ししたり、管内のお年寄りたちの様子を見に行ったり、地元のスーパーでありったけの靴下を買って持っていったりしたことを思い出す。お年寄りには足もとが冷えることがこたえてくるもの。東北に住む在日同胞たちがどうなっているのか、とても心配。いますぐ被災地に飛んでいって、少しでも手助けをしてあげたい。医療品もこれからどんどん必要になってくると思う。
◆救援準備は万全
河政淳さん(61、民団兵庫本部・防災対策委員長)民団兵庫では未曾有の被害を出した阪神・淡路大震災10年目を前にした04年9月1日、震災の教訓を活かし、普段から防災に備えるために「防災対策委員会」を設置した。
対策委員会では本部をはじめ支部、婦人会、青年会などの傘下団体役職員、一般団員も対象に火災の消火体験など、多彩なプログラムを盛り込んだ定期的な防災訓練と兵庫県広域防災センターでの体験学習を実施している。このプログラムは各支部でも実施している。
また、民団兵庫では3年前、会館1階の駐車場内に災害などの緊急事に備えた地下水揚水施設を造り、地震などの非常事態時にここから地域住民に消火・生活用水を供給できるようにしている。
阪神大震災の時もそうだったが、被災地の住民は再発生の恐怖と精神的苦痛がストレスとなる。激甚地区以外の同胞でも不安を抱えている人は少なくない。特に、一人暮らしのお年寄りは大きな不安感を抱えている。まず、これらの同胞宅を訪れて勇気づけるメンタルケアーが急務だ。大切なのは緊急連絡体制と指示体制を普段からしっかりと心がけておくこと。
兵庫では民団だけでなく、婦人会や青年会など各級組織がいつでも救援活動ができるよう、万全の準備を整えている。
嚴太仙さん(78、婦人会兵庫本部財政部長)16年が経過したとはいえ神戸の震災を昨日のことのように思い出す。当時、婦人会西神戸支部総務部長として支援活動に携わった経験からして、現段階では寒さをしのぐのが先決問題。精神面がとても不安であることを踏まえ、心のケアとして話相手になれるカウンセリングも必要になってくるのでは。そういった部門を設けることでとても励みになると思う。
◆まず義捐金から
金泰煥さん(60、民団西神戸支部支団長)神戸と同じ震災でも、今回の東北の被害は広範囲にのぼり、復興にも多くの時間を費やすと思う。在日同胞と日本人が分け隔てなく助け合い、みんな同じように対応していくことが大事。民団も義捐金を集めたりできることから始めて、神戸の震災でもらった恩返しをしていきたい。
金相英さん(47、民団兵庫県本部事務局長)神戸市と同じ震災といっても、東北では巨大津波という人間の予想を超えた状態に正直、声を失ってしまう。神戸も港町なので、他人事ではない。民団本部には防災委員会があるので、団員にメールなどで情報を送れる体制をとっている。日ごろから団員のボランテイア意識を養っていくことがいま、求められている。
弘利さん(57、民団兵庫本部団員)今回の災害規模はあまりにも大きく、我々は無関心ではいられない。いまは水や食料の確保が重要になっているが、そのあとに続くのが避難所であり、仮設住宅の問題。生活上不可欠で身近な問題では衛生問題(トイレ)のことも気がかりだ。風呂も入れない状態が続くなか、例えば、足湯などを設けるなど、ちょっとした心のケアが求められている。
◆日本人被災者も
李鐘海さん(民団新潟本部常任顧問兼事務局責任統括)04年の中越地震時、民団新潟本部団長として支援の陣頭指揮をとった。当時の経験からして、支援陣地の確認と救援ボランティアがスムーズに現地入りできる準備を整えていくこと。停電や断水、通信遮断など、ライフラインが切れていることを考慮し、救援隊自らの食料はじめ簡易発電機などの確保も求められる。現地での食事は、できる限り被災者の目が届かないところで行う。
中越地震当時は、被災者も冷めた弁当やおにぎりばかりの差し入れにあきあきしていた。数日続くと、他人に見られないようにして棄てていた。自衛隊の炊き出しが人気なかったのに比べて民団が提供した温かい肉スープやチゲ、ユッケジャンなどは大人気だった。
韓基成さん(00年9月11日の東海豪雨時、被害地区だった民団愛知・新西支部副団長)同胞が多く住む新川町堀江地区のほぼ全域が天井まで浸水する被害を被った。本部と支部が一体となって家具類を搬出し、炊き出しなどのボランティア活動を展開した。日本人市民に対しても分け隔てなく手助けした。こうして、被災地域でも同地域の復旧が最も早かったことを覚えている。
(2011.3.16 民団新聞)
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