研削で高精度の仕上げ
金属やダイヤモンドといった工具を使ってモノを削るのが切削。焼きを入れた金属を砥石(といし)で仕上げる加工が研削だ。この研削が研究テーマである。「金型や工具など硬いものの加工を得意とし、切削に比べて1ケタ、2ケタ精度が高い。鉄板など表面の凹凸が1ミクロン(1000分の1㍉)以下だ」。
町工場の依頼も
砥石を高速回転させながら、表面をなめらかに仕上げていく。「外側の周速が秒速30㍍、時速にすると100㌔になる。研削機械そのものを作ることもできる」
レンズや金型、人工関節、真珠、大理石、セラミックスから、アルミニウムのような軟質材料の加工まで、広い範囲で用いられる。
「風力発電用の歯車の場合、表面加工の精度が上がれば、効率性も高まる。飛行機のエンジンタービンはチタンの合金でできているので非常に硬い。仕上げは高速回転させて研削する」
大学の研究室に入る前、工作機械メーカーの現場で仕事をしたことがある。現場をよく知るせいか、町工場からの依頼が多い。「話を聞いて、おもしろそうであれば、何でも引き受けてしまう。大学が企業と共同で委託研究を行っていることもあるが、物好きな性分だ」
気さくにモノづくりの相談に乗る。眼球のシミュレーションや肉のスライサーなどさまざまだ。珍しいのが、明治時代に日本で初めて作られた自転車の再現。福島県桑折(こおり)町の町おこしにと、図面を製作した。
大学では精密機械科を専攻した。博士論文は「研削盤の構造に関する研究」。砥石を使って削る機械の剛性(変形のしにくさ)を調べた。剛性が高いほど優れた機械といえるが、限界がある。加工現象から考察し、どれほど剛性が必要かを理論的に提案した。
大学で取得した特許は真珠の磨き機など20件ほど。最近は、穴あけ工具の微細軸を開発。「先っぽに軸がついて、0・1㍉の穴あけ用。ディーゼルエンジンの噴射機、注射針などに活用される」
最後は職人の腕
学生のころから、コンピューター製品が出回り始めた。以来、コンピューターの発展はめざましく、さまざまな技術を担っている。
しかし、「最終の仕上げはコンピューターには無理。真っ平らな面は機械では不可能だ。職人の勘に頼らざるをえない。100分の1㍉の凹凸が職人には手触りでわかる」。
近年、一時期おろそかにされた職人への対応が変わりつつあるという。工作機械メーカーがコンピューターへの頼りすぎを改め、職人の熟練の技を見直すようになった。
モノづくりの世界と取り組んで40年。砥粒加工学会論文賞、工作機械技術振興賞などを受賞したが、苦い思い出もある。「大学教授の紹介で工作機械メーカーに就職しようとしたが、どこもだめ。助手だった時には、ある国立大学の助教授になる話があったが、その時も国籍問題でひっかかった。でも今はグローバル化の時代。日本も変わりつつある」
余暇には水泳とギターで楽しむ。
(2014.3.19 民団新聞)