ネットの不正対策に腐心
近年、情報通信技術(ICT)の発展はめざましく、スマートフォンやタブレット端末が急速に普及し、活用する人が街中にあふれている。ところが、不正アクセスによる情報の漏えいや改ざんが行われ、被害件数は増加する一方だ。これを防御するセキュリティ技術の研究がメーンだ。
際限ない対抗策
「ICT関連の製品は変わるのがはやい。携帯電話の新機種が相次ぎ、通信インフラも変わっていく。セキュリティの研究には際限がない」。サイバー攻撃への対策や認証情報の秘匿方法の追求に余念がない。
「認証のためのパスワードが他人に覗かれれば、個人情報すべてが盗まれる。2種類のパスワードでアイコンの位置を変えるとか、サイバー攻撃に対してはおとりでエラーを出したりする。しかし、次々に新手法が登場してくる。安心・安全社会をめざすためにも、技術者の養成が重要」と強調する。
5歳の時、自転車にぶつかり、骨折。処置が悪かったため、小学生の時に大手術をした。「そのせいで医者になりたかったが、入学できたのは電子工学科」。当時、「リケジョ」(理系女子)は珍しかった。「スイッチング理論」で同大修士課程修了。
国費留学を希望し、教授の紹介で情報ネット分野で知られる東北大学大学院に留学。80年代の日本は電子王国だった。「通信システムの試験に関する研究」で博士課程を修了した。
教授の勧めで、同研究の実用化をめざし、三菱電機の情報技術総合研究所に勤務。これを契機に、セキュリティの研究がメーンになっていく。「インターネットが普及しはじめたころで、時代の要請にこたえる研究を余儀なくされた」
社内LAN(ネットワーク)で本社と支社をつなぐネットのうち、人事部門の情報だけは別枠にしなければならない。「VPN(バーチャル・プライベート・ネットワーク)、つまり仮想的な組織内ネットワークの技術と装置を開発した」
携帯電話の普及をめざし、無線LANに取り組んだ。「電波による情報は誰もがキャッチし、盗聴できる。それを防ぐための暗号化によるLANシステムの開発が急がれた」。コンピューターで互いにデータや情報を伝送するための約束ごと「プロトコル」の開発で、ユーザーの利便性が劇的に向上した。この研究で06年、情報処理学会の山下記念研究賞を受賞した。テーマは「無線LANシステムにおけるシームレスユーザー認証方法に関する考察」。
韓日の懸け橋も
セキュリティ教育を重点的に推進するとの神奈川工科大学の方針から、10年に情報学部情報ネットワーク・コミュニケーション学科の教授に迎えられ、セキュリティ研究センターを立ち上げ、センター長に就任した。
昨年、大学の創立50周年記念行事の一環として、韓国や中国など近隣諸国との提携を推進した。韓国との窓口になり、母校の漢陽大から2人の先生を招き、交流締結書を交わした。「今後、韓日間の懸け橋役を担いたい」という。
(2014.5.7 民団新聞)