超電導の結晶構造解明
特定の物質を非常に低い温度に冷却すると、電気抵抗がなくなる現象が起こる。これを「超電導」という。回路のすべてを超電導で構成すれば、永久電磁石となり、大電流を与えれば、他では得られない強力な磁場を形成する。
いかなる結晶構造が超伝導体を作りうるかを研究する。
「現在、最も高い温度の超電導体は銅酸化物で、マイナス110度ほど。高感度の磁気測定装置など実用化されているものはもっと温度が低い。この温度を少しでも上昇させようと、世界の研究者がしのぎを削っている。もし室温の超電導体が発見されれば、世界のエネルギー問題がすべて解決する。夢の物質だ」
物理学の父子鷹
父親の李相茂博士は有名な核物理学者(筑波大学教授)で、在日同胞として初めて国公立大学の教員になった。父の留学に同伴し、9歳までフランスとドイツで生活した。
「父からはむしろ医者になることを勧められ、物理に関心はなかった。ところが高校生の時、ノーベル賞受賞者のファインマン博士の『物理学』を読み、魅力にとりつかれた。ある事象について考えに考えぬくと、わかり始める。さらに新たな疑問が出てきて、ついには、誰もがわからない壁に到達する。それが物理の最先端だ。その先を知りたいと思い、研究者としての道を選んだ」
東北大学に進学し、大学院の論文テーマは「中性子散乱による超伝導の研究」。大学院修了と同時に博士研究員として現・産業技術総合研究所(産総研)に在籍した。
05年に産総研のベンチャー企業として「クリスタルデザイン」を立ち上げ、取締役に就任。それまでの兼業禁止が解禁され、単結晶を製造、販売した。「単結晶にすると、その物質の特性がよくわかり、性能が良くなる。材料開発用に重宝された」
06年、エネルギー技術研究部門熱電変換グループの主任研究員に就任。08年、東京工業大学の細野秀雄教授が鉄系による新しい超伝導体を発見し、世界の注目を集めた。それを利用し、どういう結晶構造であれば、高温の超電導が実現できるかを追求した。
「結晶構造は透過力の強い中性子で分析するが、折しも、日本で唯一の研究所である東海村原子炉がメンテナンス中だった。半年間かかるというので、欧州に緊急依頼すると、即研究許可が出たのは幸運だった。その時の縁で仏・独との共同研究が続いている」
この時の「高温超電導体の温度上昇と実験的検証」が日本物理学会第15回論文賞および超電導学会第14回超伝導科学技術賞を受賞した。
続く未知の挑戦
「今後も、高い温度の超電導体を開発していく。未知への挑戦に終わりはないが、推定していたものが立証されたときの達成感は、なににも増して爽快だ」。研究者としてやりがいを感じるという。韓国からの招請で講演に出かけたことも。
5歳(男)と2歳(女)の子どもと接するときが、「一番の気分転換」。長男は今年9月からつくばインターナショナルスクールに入学する。
(2014.5.28 民団新聞)