相続の手続きが必要
貸金庫に保管は不明のもと
韓国の休眠預金を運用する財団の基金が1兆ウォンを超えたと前回書きました。なぜこんなに多いのか? 理由は明確です。預金を引き出しに行かないからです。
通帳が見つからない。少額の残高しかないとか、引き出しに行くのが面倒だから放置しているという人もいるでしょう。でも、多くの人はそんなことになるとは知らなかったというのが実情でしょう。では、あきらめますか? 高額の定期預金となれば話はちょっと別ですね。
百万円超の送金税務署宛に報告
お気づきだと思いますが、放置されている預金の大半の預金主は死亡しています。本当は銀行や国家の収益になるのではなくて、ご家族が相続するべき預金なのです。1人暮らしや、海外で住んでいて亡くなれば、銀行が本人宛に通知を出しても返送されます。誰も預金の存在に気づきません。
休眠預金は、本人が預金の存在を知っているから自分で取り戻すことができます。しかし、本人が誰にも預金の存在を教えずに死亡していたらどうでしょう。
ある実例をお話します。あるパチンコ店のオーナーが亡くなり、ご家族は、多額の相続税を払い相続手続きを完了したはずでした。ところが、後日、国税庁から連絡があり「お父さんは韓国へ億単位の送金をしている。みなしの追徴課税が嫌ならその所在を突き止め相続手続きしてください」とのことでした。
銀行を通じた海外への送金は100万円を超えると、銀行から税務署へ「国外送金等調書」で報告されています。当然、国税庁は韓国へ投資していた事実を突き止めました。家族は仰天し、通帳も見当たらないので銀行に訪ねてこられました。結局、韓国で株式と預金等が何億ウォンの単位でありました。もう少しで莫大な相続財産が消えてしまうところでした。
私は、2007年に在日同胞の預金管理応援のため済州支店へ派遣されていました。在日一世の大半が80歳超になろうという時です。それまで墓参りで毎年来られていた預金者が来店しない。預金の満期が来たので日本に連絡しても韓国語が通じない。事情を調べると、たいてい入院中や、死亡したということでした。私から連絡があるまで、ご家族もご存じありませんでした。このような事例は、実は少なくないのです。
ペイオフ実施で保護は5千万ウォン
ある預金者の通帳は銀行の貸金庫の中にありました。済州銀行、新韓銀行、国民銀行、農協等の通帳も一緒に10通ほど保管されていました。なぜそうなったかというと、韓国でも多くの銀行が破綻してペイオフが実施され5000万ウォンしか保護されなくなったからです。
預金を分散し、多くの預金通帳を持つようになった資産家は面倒なので貸金庫を借りて保管しました。当然亡くなった場合、日本で通帳が発見されることはありません。
「韓国に預金したお金を持って帰れない」という嘆きをよく耳にします。韓国税関に申告せずに持ち込んだ現金による預金です。出所が確認できないお金は、外為法の規制が厳しく簡単に国外へ持ち出せません。税関で足止めされた人も多くいます。
名義を変えれば、韓国でも相続税・贈与税がかかります。そのため韓国で塩漬けになっている預金も多くあります。ただ、その預金者が死亡した場合、相続税を払えば全額日本に送金できます。
最近は高齢化と認知症で本人自身が預金のあることすらも忘れてしまっていることがあります。暗証番号や、どの印鑑を使っていたかを忘れてしまった。こんなことは日常茶飯事です。
親子の仲が悪く「あいつには相続させたくない!」という人も実際おられました。その人の4億ウォンの預金通帳も貸金庫に預けられていました。この預金はどうなるのでしょうね?
全国相続協会相続支援センター 在日韓国人相続相談室室長 鄭相憲)
(2014.7.9 民団新聞)