北韓の3代目・金正恩は権力基盤固めに汲々としていると言われる。その通りだとしても、実効性よりは自身が独裁者であることを内外に誇示する癖が優先しているのではないか。とにかく命令や号令が好きらしい。
先軍政治が金科玉条なのに、軍の総政治局長、総参謀長、人民武力部長、作戦局長などの要職を短期間に何回も入れ替え、将星の階級を上げたかと思えば下げ、降格させては昇格させるジェットコースター人事をほしいままにしてきた。軍部に疑心や不満が募らないはずがない。
もっと興味深いのは将星に軍事教練を強いていることだろう。軍団長に射撃訓練を課し、師団長に白頭山行軍をさせた。これらはまだうなずけるとしても、海軍将星に海の10㌔㍍泳ぎを、67歳の空軍副総参謀長にミグ戦闘機の操縦を命じたとなれば、首を傾げるほかない(その副総参謀長は見事やりとげ、19年ぶりに大将に昇格したという)。
風貌を初代・金日成に似せた正恩は半面で、民心つかみにも熱心だ。視察に出向いては「人民が望む物をつくれ」などと発破をかけてきた。北韓にはジャンマダン(市場)が1380ほどあって米価も住民がハンドフォンで決定するなど、住民パワーによる市場主義的な経済が台頭している。正恩はこの市場を活用しようとしているらしい。
今のところ、先軍政治との均衡を奇形的に保っているとしても、それはいずれ崩れる。しかも、先軍が市場を撃破する可能性は低くなりつつある。住民の間で韓国製品や韓流ドラマの人気が高く、ソウル言葉が大はやりとか。後40年は唯一天下と豪語する正恩だが、足をすでに蟻地獄に突っ込んでいる。(S)
(2014.9.10 民団新聞)