◆◇◆在日には韓国法適用…分配比率で日本と大きな差
今、行政書士をしていて、相談を受けるのは相続手続・戸籍整理・帰化手続に関することがほとんどです。その中で、在日が一番理解していないのが相続問題です。そもそも遺産分割をする時の適用法律を知らないから、多い少ないと勝手に言い争い、関係のない人まで出しゃばってきます。
取り分の多い少ないでもめる時、法律が定めた相続分を理解して、納得いく分配をしなくてはいけません。そうしないといつまでも「争続」が収まりません。特に、前妻の子供や亡くなった人の兄弟姉妹が関与するようになると、収まりにくい傾向があります。
では、誰に、どれだけ分配するのかを決める目安が必要になります。相続の資格のある人たちが円満に決めれば法律の分配率に関係なく、それが優先します。しかし、相続の資格が誰にあるか、法律の分配比率はどうなっているかは、日本の法律と韓国の法律とでは大きく違います。
親が韓国籍なら韓国の法律適用
子供達は全員帰化して日本国籍を取得しているのに、死亡した親が韓国籍であれば、韓国法が適用されます。日本の相続法が適用されるのではありません。
夫が亡くなった場合、通常はその妻と子供が相続人です。これは韓日同じです。問題は兄弟姉妹が相続人になるような場合です。日本法では、子供がいない、夫の両親もいない場合は妻のほかに夫の兄弟姉妹も4分の1の相続資格があります。しかし、韓国法では妻がいる限り、死者の兄弟たちには相続権はありません。妻が全部相続します。兄弟たちには出しゃばるなと言えます。
遺産の分配率も韓日で大きく違います。特に妻の取り分が顕著に違います。妻の場合だけ説明しましょう。
日本法の場合、妻は子供が何人いようと相続財産の半分を確実にもらえる権利があります。残り半分を子供達で分配します。
しかし韓国法では子供1人ずつが1の分配で妻はその子供1人分の1・5倍しかもらえません。子供が3人いると、子供たちが3、妻が1・5、つまり3分の1になります。日本法では妻の方は9000万円の相続財産に対して4500万円もらえますが、韓国法では3000万円しかもらえません。子供が多いほど分配は少なくなります。
子供がいなくて、両親がいる場合、日本法では妻が3分の2です。韓国法ではやはり両親1人ずつの1・5倍となり、少なくなります。
相続人を決める前提は韓国戸籍
韓国法の適用で相続する場合、相続人を決める大前提が韓国の戸籍です。現在は家族関係登録簿といいます。在日の場合これが正確に記載されていません。
相続でも帰化手続でも重要なものは戸籍です。父・母・夫・妻・子供・養子等の正式な身分関係が決まります。戸籍に載っていない妻は、正式な妻ではなく「内縁の妻」です。
日本の役所に婚姻届を出していても、韓国に届けていなければ戸籍に載っていない人ですから、単純に言えば相続権はありません。戸籍に載っていない子供たちも同様です。法的には相続人ではないのです。日本では結婚しているのに韓国戸籍上ではいまだ独身の在日の方が多くいます。
そのため、死者の財産に対する相続手続が止まってしまいます。具体的には日本国内の銀行預金も、不動産も相続することはできません。法務局も銀行も法的に形式が整わない申請を拒否します。
父母が健在なときに戸籍を実態に合わせて整理しておくのが一番簡単で重要です。父母の婚姻記録がないと実子として認知されません。1度自分たちの戸籍を調べてみる必要があります。若い人の多くは、たいてい海外旅行のパスポート取得時に自分が戸籍に載っていないことに気づきます。
全国相続協会相続支援センター 在日韓国人相続相談室室長 鄭相憲)
(2014.9.24 民団新聞)