45カ国・地域から1万人近い選手が参加し、16日間にわたって熱戦を繰り広げた第17回仁川アジア大会は4日、閉幕した。韓国は前回を上回る金79個を含む234個のメダルを獲得し、目標の総合2位を果たした。閉会式には同日に仁川入りした北韓の高官も出席した。
「国民の姪っ子」と呼ばれる新体操の妖精、孫延在はこの種目で韓国初の金メダリストになった |
金メダル韓国2位
予想どおり韓中日がメダルを量産した。28の五輪競技に野球、ボウリング、クリケット、カバディ、空手、セパタクロー、スカッシュ、武術太極拳の8非五輪競技を合わせた36競技439種目で金メダルは中国151、韓国79、日本47個と、3カ国で6割以上の277個。
健闘したのがカザフスタンと北韓。前回金6個で12位だった北韓は重量挙げで世界新記録を連発するなど、11個の金メダルを獲得、総合で7位に躍進した。カザフスタンは陸上、ボクシング、柔道などでメダルを量産、前回の18個から10個増やす28個の金メダルで総合4位となった。
閉会式のフィナーレ公演は韓国映画界の巨匠、林権澤監督が総監督を務め、「アジアはこれから仁川を記憶します」をテーマに行われた。韓国の人気バンドCNBLUEや人気グループBIGBANGも参加、大会の締めくくりを盛り上げた。次回大会は18年にインドネシアのジャカルタで開催される。
サッカー男子決勝で北韓を破り喜び爆発の韓国チーム |
韓国のスター選手が出場した種目以外、各会場とも空席が目立った。韓国でのアジア大会は3度目。この間、夏季五輪、サッカーW杯、世界陸上なども開き、世界で頂点に立つ選手も増えたことで、アジア大会への関心度は低くなった。かつて、韓国では最高峰のスポーツ大会だった国体も同様の現象が現れている。
一部の韓国メディアは「アジア人同士の低レベルな大会は無意味」と批判し、「アジア大会不用論」を打ち出しているが、この論理は乱暴すぎる。
アジア・オリンピック評議会(OCA)45加盟国・地域が全て参加した今大会では、世界新記録が17も飛び出した。4年前の広州アジア大会(世界新記録3、世界タイ記録1)よりもレベルが高くなっている。
今大会でメダルを獲得したのは37カ国・地域で、前回よりも3カ国増えた。しかし、このうち五輪でメダルを獲得できるのは数カ国にすぎず、種目によっては五輪本戦にさえ出場できない。こうしたスポーツ弱小国にとってアジア大会こそ、夢と希望であり、勇気と自信を与える大会なのだ。
カンボジアにアジア大会初の金メダルをもたらしたソーン・セブメイ選手(テコンド、左)、女子柔道で銀メダルを獲得したトルクメニスタンのグルバダム・ババムラトワ選手 |
07年から仁川市が2000万㌦(約22億円)を投じ、スポーツ弱小国の人材・設備・トレーニングを支援した「ビジョン2014」も好評だった。
このプログラムの恩恵を受けてアジア大会に出場した選手は21カ国・地域97人。この中でも、トルクメニスタンのグルバダム・ババムラトワ(女子52キロ級)は同国柔道女子史上初めて銀メダルを獲得した。競技レベルの向上を実感した関係者は多い。
また、カンボジアのソーン・セブメイ選手(テコンド女子73㌔級)が同国史上初のアジア大会金メダリストとなったが、同国テコンド選手を育てたのは韓国人。政府派遣師範として96年から18年間にわたって同国テコンドチームを指導してきた崔ヨンソク氏だ。「嬉しすぎて言葉にできない」と愛弟子と抱き合って喜んだ。
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平昌成功へ教訓残す
仁川アジア大会の運営費は4800億ウォン(約496億円)で、06年のドーハ大会、10年の広州大会と比べると4分の1程度にすぎない。大会組織委員会は低予算で効率的に大会をこなし、今後、招致をめざす発展途上国のモデルケースを示した。
メーンスタジアムをはじめとする競技会場は選手たちが実力を最大限発揮するのに適していた。しかし、運営費の抑制は数々の課題も残した。
選手村には冷暖房設備がなく、残暑が厳しい大会序盤や、気温が下がった大会後半は選手たちの不満が募った。ボランティア教育も十分実施できず、一部には任せられた仕事よりも選手たちの写真を撮ったり、サインをもらったりする姿も見られ、不評を買った。
18年開催予定地のインドネシア・ジャカルタ関係者に手渡されたアジア・オリンピック評議会(OCA)旗 |
仁川アジア大会は事故のない「安全大会」でもあったが、一方で大会運営をめぐり不十分な部分も露呈した。
プレスセンターと競技会場を結ぶシャトルバスの発着時間も変更が多く、運行スケジュールのガイドブックがほとんど役に立たなかった。
ヨルダンから来た記者は「国際大会なのに、英語のできる人が少なすぎる。また、至る所に設置した標示板の英語表記にも間違いが多く笑ってしまう」などと、メディアからの批判が多かった。
仁川は、招致した市長、準備を進めた市長、開幕時の市長が異なる。所属政党も違う。市長が代わるたびに方針も変わり、市と組織委員会の意思疎通が不十分だった。
責任所在が曖昧なまま、軌道修正する度に「なすり合い」「押し付け合い」が目立った。組織委員会内部からは「今後大きな大会を行うときは専門知識を持つ民間人材を活用すべきだ」と自省の声が上がっている。
仁川と周辺都市は工場密集地域であり、唯一の中華街もある。近年、労働者を中心に外国出身者が急増している。
韓国でのアジア大会を3度取材した日本人記者は「競技会場には、韓国在住のモンゴル、インドネシア、フィリピン、イランなどの人たちが多数応援に来て国際色豊か。過去、自国の祭典という色彩が強かったことを考えると、本当の意味で、アジア大会らしかった」とし、「多文化共生を模索する韓国社会の一端も垣間見ることができた」と評価している。
韓国は五輪、サッカーのW杯、アジア大会といった数多くの国際スポーツ大会を開催してきたものの、運営ノウハウをしっかり蓄積し引き継いできたとは言えない。
3年半後の平昌冬季五輪が成功を収めるためにも、仁川で露呈した課題をしっかりと検討し、組織委員会と市、そして国民が一体となって万全を期すべきだ。
北韓は重量挙げなどで5個の世界新記録を更新するなど大活躍。写真は3個の世界新記録を更新した金ウング |
北韓は金11、銀11、銅14で総合7位と躍進した。9位を記録した02年釜山大会以来12年ぶりのトップ10入りだ。特に重量挙げでは、5件の世界新記録を達成、今大会更新された12件の半数近くを占める活躍ぶりをみせた。
国際スポーツ大会で長い間低迷した北韓が仁川で活躍したのは、「体育大国の建設」をスローガンに金正恩政権発足後に行われてきたスポーツへの集中支援にあるとされる。
また、今大会への参加に当たり、西海直航路を利用することで、約1時間で現地入りし、長時間移動を避けることができた。選手団全員が一緒に移動した過去とは違って、試合の日程に合わせ5回に分散入国したことでもベストコンディションを保てた。
韓国選手団の関係者は「選手村で北韓選手たちは食欲の旺盛さを見せていた。口に合う料理も競技力向上につながったのでは」と述べた。距離が近い北韓にとって仁川は「ホームアドバンテージ」享受の地になった。
閉会式のフィナーレには人気グループ、BIGBANGが登場、日本を初め各国選手たちが大喜びで駆け寄った |
(2014.10.8 民団新聞)