自壊する北スパイ「一家」…南の本物に憧れて
任務遂行のために理想の家族を演じる4人の北韓スパイたちの姿を描いた、キム・ギドク制作・脚本・編集の「レッド・ファミリー」(配給=ギャガ)が東京・新宿区の新宿武蔵野館ほかで順次全国公開されている。
2013年、第28回東京国際映画祭のコンペティション部門に出品し、圧倒的な支持を集めて「観客賞」を受賞した。今回、キム・ギドクが監督に指名したのが、フランスで映画とデジタル・アートを学び、これが長編映画監督デビュー作となるイ・ジュヒョンだ。
人も羨む仲むつまじい家族は、実は北韓のスパイ集団「ツツジ班」。威厳のある祖父(ソン・ビョンホ)、優しい夫(チョン・ウ)、おしとやかで貞淑な妻(キム・ユミ)、彼らを敬う娘(パク・ソヨン)は、まさに理想の韓国家族。ところが、家に入りドアを閉めると妻役の班長は豹変する。物を放り投げたり、鬼のような形相で祖父の足を蹴りあげたりもする。
今日も隣の韓国人一家は、くだらないことで言い争っている。自分勝手な夫、家事のできない妻、人生に疲れた祖母、いじめられっ子の息子。スパイ一家は隣の家族を「資本主義の限界」とバカにしていたが、偽りのない感情をぶつけ合う家族の姿に次第に心を動かされていく。やがて任務に、そして人生そのものに疑問を感じ始めたスパイたち。
そんな中、夫役のスパイの妻が脱北に失敗したと聞いた班長は、手柄を立てて助けようとするが、逆に大失態を犯してしまう。母国に残した各々の家族の命と引き換えに4人に与えられた最後のミッション、それは堕落まるだしの「隣の家族の暗殺」だった。
鬼才キム・ギドクが南北統一を心から願って書いたという脚本は、普遍的な家族愛を際立たせ、ストレートに胸をゆさぶる。隣の家族が起こすトラブルに巻き込まれていくうちに、本物の家族の姿に憧れを抱き、ニセ家族でも心を開き始めるスパイたちの心の変化は見逃せない。
上映劇場情報は公式サイト(http://redfamily.gaga.ne.jp/)。
(2014.11.5 民団新聞)