前回に引き続き、トラのむかし話絵本を紹介しましょう。今回紹介するのは、『あずきがゆばあさんとトラ』です。
むかし、ある山里におばあさんがひとりで住んでいました。あずき畑で働いていると、山からトラがおりてきて、おばあさんを食べようとします。
「トラさん、トラさん、このあずきが実ってから、あずき粥を食べるまで待っておくれ」
あずき粥も食べたいトラは、「あずきができるころにまたきて、とって食ってやるからな」といい残して帰っていきました。
秋になり、あずき粥をお釜いっぱいに作ったおばあさんは、悔しくて、悲しくて、しくしく泣きました。すると、たまご、スッポン、うんち、きり、石うす、むしろ、しょいこたちが順番にやってきます。そしてみな、「わたしに一杯くれたら、助けてあげる」といって家のあちこちにかくれます。
夜になって、ついにトラがおばあさんの家にやってきました。トラは土間でウォ‐ッと叫びます。でも、暗くておばあさんが見えません。火をつけようとしたところ……。
どこかで聞いたことのあるようなお話でしょ。親をサルに殺されたカニの子どもが、栗と石うすと蜂と牛ふんの助けを借りて、見事に仇討ちを果たす、日本の「さるかに合戦」によく似たお話です。
ところでトラは、おばあさんだけでなく、あずき粥も食べようと欲張ったために墓穴を掘ります。おばあさんに味方した者たちだって、あずき粥がほしいから助けてくれました。それほどみなが、あずき粥が食べたいと思うのには、何か訳がありそうですね。
韓半島では、古くから冬至の日にあずき粥を食べる習慣があります。ご存知のとおり、冬至の日は昼が一年で一番短い。太陽の恵みが一番弱くなります。そんなことからむかしの人たちは、冬至に太陽が新たに生まれ変わると考えたのでした。そこで冬至の日に、邪気をはらうという赤い色の食べ物、つまりは、あずき粥を食べたり、まいたりするようになったと考えられています。
さて、今回紹介したこの絵本、ありふれたむかし話絵本に思われがちですが、実は、韓国の絵本史にその名を刻んだ、たいへん優れた一冊なのですよ。何せ、韓国の絵本として、歴史上初めて大きな国際賞を受賞したのですから。
イタリアのボローニャでは、毎年、世界最大の児童書の見本市である「ボローニャ国際児童図書展」が開催されています。絵本原画のコンクールもあって、世界各国から数多くの応募があります。
2004年、イラストレーターのユン・ミスクは、この絵本の原画で、見事、シン・ドンジュン『地下鉄が走ってくる』(日本語版未刊)とともに、「ボローニャ・優秀賞」を受賞しました。惜しくも最優秀賞は逃したとはいえ、数人にしか与えられない国際賞の受賞は、快挙でした。
絵本に関わった者なら、誰もが憧れる栄誉に、韓国の絵本関係者にそれはそれは大きな夢と希望を与えたのでした。この受賞を機に、韓国の絵本は次々と国際的な賞を受賞していきます。このコラムでも紹介していきますよ。
キム・ファン(絵本作家)
(2014.12.10 民団新聞)