今年も押し迫ってまいりましたね。そこで、今年を締めくくるのにふさわしい絵本を紹介しましょう。
『はしれ、トト!』はまさに、今年を代表する韓国絵本です。
みなさん、思いだしてみてください。今年はウマ年でしたよね。韓国の済州島には、「チョランマル」というポニーがいます。このウマのルーツは、高麗時代にモンゴルが済州島を直轄地として支配し、戦闘馬を育てたことにあります。韓半島の在来馬と、モンゴル馬の交雑で生まれたと考えられているのですよ。もちろん、天然記念物です。
なるほど、チョランマルがでてくるお話なんだな、と思ったみなさん、期待を裏切ってしまってごめんなさい。この絵本にチョランマルはでてきません。でてくるウマは、ぬいぐるみのウマと、競馬場にいる競走馬なのです。
女の子のお気に入りは、「トト」という名前のウマのぬいぐるみでした。女の子はまだ、本物のウマを見たことがなかったのです。ある日曜日の朝、おじいちゃんが競馬場に連れていってくれました。
「本物のウマってどんなかな? 胸がドキドキしてきました……」
そんな女の子が競馬場で見たのは、何かをじっと見ている人、何かを書いている人、何かを考えている人、すごく大きなスクリーンを見ている人。
女の子はウマにニンジンをあげたり、なでたりしないことに戸惑います。
「一等になるウマを当てたら、お金がたくさんもらえるんだって」
競走馬のなかに、トトそっくりのウマがいました。女の子は、そのウマが勝つと予想します。けれどもおじいちゃんは、ちがうウマの馬券を買いました。
いよいよレースがはじまりました。女の子の応援するトトは……。
この絵本のおもしろいところは、幼い女の子の目線で、競馬場にくる大人たちをシュールに観察しているところです。そしてそれを色々な技法の絵で、的確に描いたところでしょう。
子どもの目の鋭さに、思わずはっとさせられるこの作品は、2011年の「ブラティスラヴァ世界絵本原画展」(BIB)で、グランプリに輝きました! この賞は、スロバキアの首都であるブラティスラヴァで、2年に一度開催され、「国際アンデルセン賞」と並ぶ、児童書分野の権威ある賞です。絵本のイラストレーターに与えられる国際賞のなかで、もっとも古いもののひとつです。
驚くことに作者のチョ・ウンヨンは、この絵本が自身の処女作。そして何と、準グランプリにあたる「ゴールデンアップル賞」も、韓国のイラストレーターが受賞したのですよ。
さて、冒頭で今年を締めくくるのにふさわしい絵本だといったのは、単に今年がウマ年だったという理由だけでは決してありません。実は、この絵本の日本語版が、今年の「日本絵本賞」の「翻訳賞」を受賞したからです。
わたしはこの絵本にでてくる大人たちの、哀愁に満ちた表情が大好きです。なかでもおじいちゃんは最高です。『はしれ、トト!』は、先にフランスで発売され、韓国に逆輸入されました。
子どもだけでなく、大人にもたのしんでもらいたい絵本です。
キム・ファン(絵本作家)
(2014.12.24 民団新聞)