2006年の年が明けてすぐのことでした。韓国からやってきた留学生が、わたしに絵本をプレゼントしてくれました。金色のハングルで大きくタイトルが書かれていたのですが……。 ソルビム? うーん、はじめて聞く言葉だなぁ。いったいどういう意味なんだろう? と、困ってしましいました。
留学生といっても、若者ではありません。韓国の出版社で長年児童書を担当したあとに退社。フリーランスの翻訳家としてすでに活躍していましたが、日本の優れた絵本を韓国に紹介しようと、自らのスキルアップのために絵本を学びにきた同い年の女性です。
「キムさんのところは娘さんばかりなので、プレゼントにいいかなって。でもね、女の子のだけじゃダメよといっているの。男の子のも作りなさいって」
のちに親しい友人となるこの留学生は、後輩編集者から送られてきた、できたてほやほやの新しい絵本をわたしにプレゼントして、得意気でした。
セットンチョゴリを着た女の子が描かれた表紙をめくると、真っ白のソクチマとソクチョゴリを着た女の子が、つぎのページでは真紅の絹のチマを着て、つぎをめくると刺繍をした綿入りのポソンをはき、そしてやがてセットンチョゴリを着るというように、ページをめくるたびに正装を整えていくのでした。
「うわぁー、これはかわいくてきれいな絵本だね。きっと、うちの子たちも気に入るよ!」
案の定、絵本を持ち帰ると、3人娘と妻は絵本にくぎづけになりました。友人のいっていたとおり、翌年には男の子編も発売されました。今回紹介するのは、そのときの絵本、『ソルビム』(原題 )です。
ウリ民族は、すべてが新しくはじまるお正月には、着るものもまた、頭のてっぺんからつま先まで、新しいものを新調しました。お正月にはじめて着る晴れ着のことを、「ソルビム」というのだと知りました。わたしもこの絵本と出会ってからは、新年に新しい服を準備するようになりました。
まっさらなソルビムに着替えたなら、つぎにしなくてはいけないことがあります。女の子も、男の子も、親戚の年上の方にあいさつをするために、雪のなかをでかけていきました。
絵を見ているだけでも十分にたのしい絵本ですが、巻末には、それぞれの服や飾りなどの名称、それにこめられた思いが、図入りでわかりやすく解説されているのです。
ところで、むかしは着るものは、ほとんど家でつくりました。ソルビムも、例外ではありません。その家の女性たちが家族全員のものを仕立てたのです。特に子どもに着せるソルビムには、ひと針ひと針に、オモニの愛がこめられました。 わたしは男の子編の最後の絵がとても好きです。ソルビムを着た、幼い男の子、お姉ちゃん、アボジ、オモニ、ハラボジ、ハルモニの家族全員が、民画の前で、まるで記念写真を撮っているかのようなすてきな絵です。
その絵の中心にいるオモニが、なんとも誇らしげな表情をしているように見えるのです。そりゃあそうでしょう。オモニが、家族全員のソルビムを仕立てたのですからね!
キム・ファン(絵本作家)
(2015.1.1 民団新聞)