今年、国交正常化50周年を迎える韓日両国の関係は、歴史認識問題を含む戦後補償問題や領土問題の再燃でかつてなく冷え切っている。両国間の大きな争点となっている日本軍慰安婦、元徴用労働者、独島(日本名竹島)問題について、双方の政府の主張を並べて紹介する。ちなみに、独島問題は1950年代初めから存在し続け、日本軍慰安婦問題、元徴用労働者問題は90年代以降に被害者が公に声をあげ、市民がそれを支援することで顕在化した。
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日本軍慰安婦問題
政治的決断を継続促す…請求権協定で解決済み
■韓 国
官民共同委で未解決事例に
91年から韓日間の最大の懸案のひとつとして浮上した日本軍慰安婦問題について金泳三大統領は、就任直後の93年3月、日本に物質的補償を求めず、韓国政府が被害者に支援措置を取ると宣言し、実施した。98年からの金大中政府も支援金を追加支給した。
盧武鉉政府時の2005年8月には、国務総理を共同委員長とする「韓日会談文書公開後続対策関連民官共同委員会」が、1,慰安婦問題等のような日本政府などの国家権力が関与した「反人道的な行為」については韓日請求権協定により解決されたものと見ることはできず、日本政府の法的責任が残っている2,原爆被害者、サハリン残留同胞問題も請求権協定の対象に含まれていないとの公式見解を表明した。
だが、政府は大局的な見地から慰安婦問題を韓日両国間の外交懸案としては提起しないとの既存の立場を堅持した。
これに対して06年に、元慰安婦らが原告となって個人請求権の問題を憲法裁判所に提訴。11年8月、憲法裁判所は、原告らの賠償請求権が請求権協定第2条1項(別掲)によって消滅したか否かに関する韓日両国政府間の解釈上の紛争があるのに、それを同協定第3条に基づいて解決しないでいる政府の不作為は憲法違反である、と決定した。
請求権協定第3条1項は「この協定の解釈及び実施に関する両締約国間の紛争は、まず、外交上の経路を通じて解決するものとする」、2項は、それによって解決できない紛争は「仲裁委員会に決定のため付託するものとする」となっている。
仲裁委員会の構成は、両国が選定する各1人ずつとその2人が合意する第3国の政府が指名する第3の委員からなる。もしくは両国が合意する第3国の政府の指名する仲裁委員3人で構成。委員3人の合意で結論を出し、両国政府はその結論に従うと定めている。
「違憲」解消へ協議申し入れ
違憲判決を受けて李明博政府は同年9月、違憲状態を解消するために、日本政府に対して慰安婦問題に関する協議の申し入れを行った。だが、日本側は「法的に解決済み」との立場で応じる姿勢を示さなかった。
李大統領は同年11月、京都で開かれた韓日首脳会談で、慰安婦問題について「実務的な発想より大きな次元での政治的な決断を期待する」と強く促した。野田首相は「法的には解決済みではあるが、これからも人道的見地から知恵を絞っていく」と述べた。しかし、その後なんら具体的な形となっていない。
李大統領は翌12年8月の光復節演説で「日本軍慰安婦被害者問題は両国の次元を超え、戦時における女性の人権問題として人類の普遍的価値に反する行為」だとし、「日本政府の責任ある措置」を求めた。
その後、両国に新政権が発足したものの(12年12月に安倍晋三内閣、13年2月に朴槿恵政府)、慰安婦問題での進展はなく、ようやく昨年4月から慰安婦問題などに関する局長級協議が開かれるようになった。
韓国側は「請求権協定によって慰安婦問題が解決したわけではない」「被害者が納得できる方向で実質的に解決しなければならない」との立場を強調している。
朴槿恵大統領は昨年8月の光復節演説で「私は日本軍慰安婦被害者らが納得することのできる前向きな措置を日本に求めてきた」とし、解決に向けた「日本の政治家の知恵と決断を期待する」と述べた。
なお、元慰安婦を支援する韓国挺身隊問題対策協議会(挺隊協)は日本政府の公式謝罪や法的な賠償を求めている。
■日 本
謝罪と償いは人道的立場で
日本政府の基本的立場は、「請求権協定により請求権問題は解決済みであり、被害者個人への補償・賠償措置はできない」というものである。
90年代に入り、韓国政府の慰安婦問題に関する「真相究明及び誠実な対応」という要求に対しては、93年8月の最終的な調査結果の公表にあたり「河野洋平官房長官談話」を発表し、人道的立場から政府としての謝罪を行った。
河野談話は「いずれにしても本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である」と官憲の関与を認め、「このような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい。われわれは歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さない」という「固い決意」を表明した。
同談話に基づき、人道的な解決策として95年に、元慰安婦に「償い金」を支給するための半官半民の「女性のためのアジア平和国民基金」(アジア女性基金)を設立し、元慰安婦それぞれに対して1,「償い金」200万円の支給2,政府拠出による医療・福祉支援事業300万円分の実施3,首相による「お詫びの手紙」を手渡すことになった。
この謝罪と償いの事業は韓国、台湾、フィリピン、インドネシア、オランダの5カ国で展開されたが、韓国では「日本政府が法的な責任を認めた賠償ではない」として、激しい反対運動が起き、ほとんど評価されなかった。基金は、把握された5カ国約700人の被害女性のうち364人に「償い」を届け、07年3月に解散した。
「河野談話」を歴代首相継承
韓国政府に登録している元慰安婦の総数は237人、14年12月現在の生存者は55人。登録者総数のうち過去に「アジア女性基金」から「償い金」と歴代首相の慰労・謝罪の書簡を受け取った人は60人である。
河野談話については、歴代内閣が踏襲することを表明してきた。安倍首相も河野談話の継承を明言している。昨年6月に「河野談話作成過程等に関する検討チーム」の報告が公表された時も、安倍首相は同談話の継承を強調している。
■韓日請求権及び経済協力協定第2条1項
「両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、1951年9月8日にサンフランシスコ市で署名された日本国との平和条約第4条(a)に規定されるものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」
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独島問題
領有権紛争は存在せず…固有の領土を不法占拠
■韓 国
【基本的な立場】
独島は、歴史的・地理的・国際法的に明らかに韓国固有の領土である。独島をめぐる領有権紛争は存在せず、独島は外交交渉および司法的解決の対象になり得ない。
【地理的認識と歴史的根拠】
独島は地理的に鬱陵島の一部として認識されてきた。
韓国が独島を韓国領土として認識・統治してきた歴史的事実は、韓国の官撰文献にも記録されている。
【領有権の確認】
17世紀、韓日政府間交渉(「鬱陵島争界」)を通じ、鬱陵島とそれに属する独島が韓国の領土であることが確認された(1696年)。
1905年、「島根県告示第40号」による独島編入の試みがあるまで、日本政府は独島が自国の領土ではないと認識していた。これは、1877年の3月の「太政官指令」など日本の公式文書でも確認できる。
【韓国侵略の第一歩】
大韓帝国は、1900年の「勅令第41号」において独島を鬱島郡(鬱陵島)の管轄区域として明示し、鬱島郡守が独島を管轄した。
1905年の島根県告示による日本の独島に対する領土編入の試みは、韓国の主権を侵奪する過程の一環であり、韓国の独島領有権を侵害した不法行為であるので国際法的にも無効だ。
【領有権の回復】
第2次世界大戦の終戦後、独島は韓国の領土に戻り、韓国政府は確固たる領土主権を行使している。
日本の独島に対する非合理で執拗な主張は、韓国国民に日本が再び韓国侵略を試みようとしているのではないかという疑念を抱かせる。
韓国国民にとって独島は単なる東海上の小さな島ではなく、韓国主権の象徴だ。
(以上、韓国外交部の冊子より)
■日 本
【基本的な立場】
竹島が日本固有の領土であることは、歴史的にも国際法上も明らかである。韓国は、一方的に竹島を取り込み、不法占拠している。この問題の平和的解決を目指す。
【固有の領土】
各種の地図や文献から、日本では、竹島について古くからその存在を確認していたことがわかる。17世紀初めには、日本の町人は幕府の許可を得て、鬱陵島に渡る際、竹島を航路の目印として、またアシカなどの漁獲地として利用。遅くとも17世紀半ばには、竹島の領有権を確立していた。
さらに、1900年代初期、島根県の島民からアシカ猟事業の安定を図る声が高まり、政府は1905年1月、閣議決定で竹島を島根県に編入し、領有を再確認した(同年2月に島根県が告示)。
戦後、1951年9月に署名されたサンフランシスコ平和条約では、日本は朝鮮の独立を承認するとともに、放棄すべき地域に「済州島、巨文島、鬱陵島を含む朝鮮」が規定され、竹島を日本が放棄すべき地域に含めなかった。
しかし、1952年1月、韓国は「海洋主権宣言」を行い、いわゆる「李承晩ライン」を国際法に反して一方的に設定し、同ラインの内側の広大な水域への漁業管轄権を主張するとともに,そのライン内に竹島を取り込んだ。
韓国は現在に至るまで、竹島に警備隊員を常駐させ、宿舎や監視所、灯台、接岸施設を設置するなど、不法占拠を続けている。
日本は、54年以降3回にわたって竹島の領有権に関する問題を国際司法裁判所(ICJ)に付託することを提案しているが、韓国は拒否している。
(以上、日本内閣官房「領土・主権対策企画調整室」の「竹島問題について」などから)
■紛争解決交換公文
1965年6月の韓日基本条約調印とともに交わした「韓日両国の紛争解決に関する交換公文」では、あえて「独島」の名称を明記せず、「両国政府は、別段の合意がある場合を除くほか、両国間の紛争は、まず外交上の経路を通じて解決するものとし、これにより解決することができなかった場合は、両国政府が合意する手続きに従い、調停によって解決を図るものとする」と定められた。
この「紛争」について韓国側は「独島問題は含まれていない」との立場をとっているのに対して、日本側は「竹島問題」を指しICJ付託や第三者による調停に委ねることができると、それぞれ別々に解釈している。
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元徴用労働者問題
「大法院判決」後も慎重…90年代までは類似見解
■韓 国
韓国では2012年5月24日に、大法院(最高裁判所)が「韓日請求権協定で韓国人の個人請求権は消滅していない」と元徴用労働者らの個人請求権を認める判断を示して以降、第二次大戦中に韓半島出身者を徴用した日本企業に損害賠償を求める訴訟が複数提起され、日本企業敗訴の判決が続いている。
「外交上解決」には変更ない
大法院の判決は、1,韓日請求権協定は、サンフランシスコ平和条約第4条に基づき、韓日間の財政的・民事的債権・債務関係を政治的合意によって解決するためのものであり、植民地支配に対する賠償を請求したものではない2,日本の国家権力が関与した反人道的な不法行為や植民地支配に直結した不法行為による損害賠償請求権が請求権協定の適用対象に含められたと見ることは難しいと明示。
結論的に「原告たちの損害賠償請求権については、請求権協定によって個人請求権が消滅しなかったことはもちろん、大韓民国の外交保護権も放棄されていないと見るのが相当である」と判示した。
韓国政府は、65年の韓日国交正常化以後、「個人請求権問題は請求権協定により完全かつ最終的に解決された」と説明してきた。
だが90年代に入り、政府は「協定」により消滅したのは外交保護権だけであり、「請求権協定は個人の請求権訴訟など裁判を提起する権利には影響を及ぼさない」と、個人の請求権は消滅しなかったと主張するようになった。
さらに盧武鉉政府時の2005年には「民官共同委員会」が、植民統治時代の被害者に対する補償は、国内措置として取り組むと表明。ただし、慰安婦、原爆被害者およびサハリン残留同胞問題については、その例外で、「日本政府の法的責任が残っている」と主張した。
同委員会は、元徴用労働者の請求権については請求権協定に基づく日本側の資金提供で解決し、追加補償を求めるのは困難との結論を出した。
これに不満をもった元徴用労働者らが裁判に訴え、日本政府や企業の責任を追及し、12年の大法院の判決となった。
外交通商部は大法院の判決直後の5月29日、「政府の立場は一貫しており、請求権協定で徴用労働者の請求権に関する問題は外交上解決済みとの政府の立場に変更はない。今回の件は政府が当事者ではなく個人と企業の間の訴訟で、尊重するが、拘束力については検討する」との立場を表明している。
■日 本
日本政府は「日韓間の財産請求権の問題」は韓日請求権協定で「完全かつ最終的に解決」(第2条1項)済みと主張し、被告企業には「法的義務はない」としている。
しかし、第2条1項の意味は「実体的な権利は残っている」という意味だというのが日本政府の公式見解とされる。
2007年4月の日本最高裁の二つの判決(中国人「慰安婦」判決、西松建設中国人強制連行事件判決)によれば、被害者個人の日本国に対する賠償請求権は、「裁判上の請求」に対して、「裁判上訴求する権能」は失うが、請求権自体は「実体的に消滅」していないことになる。
条約局長らの国会での答弁
日本政府は、少なくとも90年代までは、一貫して、個人の権利に関連して「請求権協定」によって消滅したのは、それに関する国家の外交保護権だけであると主張してきた。
たとえば、91年8月27日、柳井俊二外務省条約局長は参議院予算委員会で「いわゆる個人の請求権そのものを国内法的意味で消滅させたというものではない。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできないという意味だ」と答弁した。
また竹内行夫外務大臣官房審議官は94年3月25日の衆議院内閣委員会で「個人としての請求を例えば裁判所に提起するという権利まで奪われているということではない」と、請求権の意味を具体的に提示した。
請求権についての日本政府の見解は、2000年に入ってから転換し、被害者個人の請求権は、韓日請求権協定などの条約により請求することができなくなったと主張しだした。
それまでの日本政府の見解は2012年の韓国大法院判決の第2条1項についての見解と類似している。ただし、大法院判決は、違法行為についての請求権については外交保護権も放棄されていないとしている。
▼外交保護権=個人が他国の違法行為により損害を受けた場合に、その個人が属する国が加害国の国家責任を追及する権利
(2015.1.1 民団新聞)