いい初夢を見た方もいらっしゃることでしょう。もしかするとそれは、何かの「夢のお告げ」かも知れませんよ。夢からヒントを得て成功したという話は、数多くありますからね。
イタリアの作曲家、ジュゼッペ・タルティーニは、悪魔が見事にバイオリンを演奏している夢を見て、名曲「悪魔のトリル」を作曲したといわれています。
また、ドイツの科学者、アウグスト・ケクレは、ヘビが自分のしっぽをくわえて回っているうちに大小の球が飛んできて、それらがつながって鎖になる夢を見たことで、ベンゼンの構造式を発見したといいます。 昨今は科学が急速に発達し、夢の科学的な解明も進んでいるといいますが、むかしの人たちも、夢を解明しようと懸命に努力しました。ウリ先祖の夢に対する考え方を知るにおいて、 「魂(たま)ネズミの話」という説話は、とても興味深いものがあります。
人の鼻の穴の奥には、魂ネズミという2匹のハツカネズミが住んでいて、人が眠ると鼻の穴からネズミが外へとでていく。夢は、そのネズミが経験してきたことだというお話です。つまり、夢のお告げも魂ネズミのしわざというのです。
各地に、いろいろなパターンの魂ネズミのお話が伝わっていますが、わたしが好きなのは、京畿道南楊州に伝わるお話です。
娘が嫁いだ男は泥棒でした。娘は、夫がまともな人間になってくれることを望んでいました。とはいえ、食べていかなくてはいけません。泥棒をやめてくれともいえずにいました。
ある日、夫が昼寝をしていると、鼻の穴から赤いネズミが3匹、そろりそろりとでてきました。外にでていきたいが、敷居が高くてでられない。娘は物差しを橋にして渡してやります。
しばらくしてネズミたちが帰ってくると、娘は最後の1匹を物差しで叩き殺しました。眠りから覚めた夫は、泥棒する家の夢を見たが、恐ろしくていけないといいます。それからというもの、真面目に農作業をするようになったのでした。
ふつうの人の魂ネズミは2匹だけれど、泥棒や悪いことをする人はもう1匹、3番目がいる。さしずめその悪いネズミは、泥棒する勇気をつかさどっていたというのですから、おもしろいでしょ。
さて、今回紹介する『ふしぎなしろねずみ』は、忠清道のお話です。おじいさんの鼻の穴からでてきた白いネズミによって、宝物を見つけるという縁起のいい話です。
それというのも、おばあさんが困っていたネズミを、親切に物差しで助けてあげたからです。
南楊州のお話が赤色なのに対し、こちらは白色。やはり白色というところに、神聖なものという意味がこめられたのでしょうね。
ところで、ふたつのお話に共通して大事な役割を果たしているのが、ほかならぬ物差し。伝統的な物差しにはよく、写真のような北斗七星の模様が描かれてきました。北斗七星には、正義を計ったり、命をつかさどる力があると古くから信じられてきたからです。
もちろん、絵本の物差しにもちゃんと北斗七星が描かれていますよ。絵は、韓国人としてはじめて「ボローニャ・ラガッツイ賞」優秀賞に輝いたユン・ミスク。さすが! と唸ってしまう絵です。
キム・ファン(絵本作家)
(2015.1.15 民団新聞)