「国」を名乗るテロ集団の狂気が日本人2人の命を奪った。世界の耳目を掻き集めながらのこれ見よがしの蛮行だ。その一因として安倍首相の勇ましい言葉を問題視する向きがある。
2億ドルの支援を表明した際、2人がすでに「人質状態」にありながらなぜ、「ISIL(「イスラム国」の別称)と闘う周辺各国を支援する」と強調したのか。手ぐすねを引く集団に絶好の機会を与えたのではないか。日本人の多くがそうは考えていないにせよ、適切性について論議の余地は残る。
テロ集団は日本の国民に、政府に圧力をかけろと呼びかけた。内輪もめを誘う敵の心理戦に乗せられ、憎む相手を見誤ってはならない。日本にあってそれは杞憂であるのに、敢えてそう強調するメディアが目立つ。特定秘密保護法の制定、集団的自衛権の行使容認など、「歴史修正」とともに軍事力行使を拡大する法整備が一気呵成に進んできた。安倍さんは在外日本人の救出にも自衛隊を使いたいらしい。これらを後押しすべく、わずかな批判さえ封印したいのかと勘ぐりたくなる。
安倍さんの言動を擁護するメディアなら、イスラエルのホロコースト記念館での発言も重視すべきだ。「苦難を、全人類の遺産として残そうとする皆様の努力に、心からなる敬意」の表明は、「従軍慰安婦」や「強制連行」の記述を削除する歴史修正主義と、「特定の民族を差別し、憎悪の対象とすることが、人間をどれほど残酷にするのか」学んだとの言明はヘイトスピーチと、それぞれ対極にある。
言葉に自信を持ち、いったん口に出したら訂正しない安倍さんの強さに、この問題に限っては期待したい。(S)
(2015.2.4 民団新聞)