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異例の大会決議
待ち受ける難題…在日の将来を大きく左右
A 第53回定期中央大会で選出された新3機関長は、任期が満了する2018年2月まで重大事案が相次ぐだけに、いつにない覚悟で今期に臨もうとしている。「今後3年が在日同胞と本団の将来を大きく左右する正念場になる」との認識に立って大会決議文(別掲)を採択したのがそのあらわれだ。今期3年の民団の使命について考えたい。
B 民団が年に1回の定期中央委で採択する「基調」は、言うまでもなく単年度の活動方針だ。定期中央大会は3年に一度だが、向こう3年の活動方針を確認する場ではない。団長立候補者や当選者が自分なりの中期ビジョンを提示することはあっても、今回のように大会が今後3年にわたる決意を表明したのは前例がないだろう。
C 確かに。大会決議はこれまでにもあった。直近では2009年の第51回定期大会が採択している。だが、このときの決議文はおもに、民団が特定の政治団体や宗教団体と一線を画す存在であることを再確認し、組織にいかなる政治的対立も持ち込ませず、同胞社会をかく乱するいかなる策動も許さないとの内容だ。2006年の5・17事態(当時の中央執行部が総連=韓統連のいわゆる従北勢力に民団を従属させようとした事件)を克服したことを踏まえ、民団の生活者団体としての基本姿勢を改めて明示するものだった。
D 今大会の決議文が言及した重大事案だけでも、今年6月の韓日国交正常化50周年、8月の光復70周年、2016年4月の韓国国会議員選挙、2017年12月の韓国大統領選挙、2018年2月の平昌冬季五輪大会と新大統領の就任式があり、2016年10月の民団創立70周年がある。民団は組織の活性化だけでも大変なのに、引き続き韓日関係、ヘイトスピーチに神経を使わねばならず、2大国政選挙の成り行きや政局によっては本国との関係も試練にさらされかねない。そうした懸念に果敢に対処しようということだ。
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韓日関係に募る危機感
「発言」する懸け橋に…歴史修正・ヘイトスピーチ許さず
A 決議文には5項目ある。第1項では韓日関係のすみやかな正常化を求めた。歴史修正主義とヘイトスピーチにも言及している。
B 第1期の呉公太執行部は、スタートの2012年8月から韓日関係の急激な悪化に見舞われた。ほぼ時を同じくしてヘイトスピーチ(憎悪表現)が新大久保や鶴橋で猛威を振るい始めた。70年になろうとする民団の歴史にあっても、日本社会に韓国と在日を露骨に《敵視》する動きがこれほど顕在化したのは初めてだ。そんな12月に朴槿恵現大統領が当選し、第2次安倍晋三政権が誕生した。
C 安倍さんは歴史修正主義の牽引役でもあり、第1次政権時に靖国神社に参拝しなかったことを「痛恨の極み」と言い、「河野談話」「村山談話」を見直すとも公言してきた。総選挙に圧勝した勢いで本気でそれをやりかねない。朴槿恵大統領も簡単には動けなくなった。
D 呉執行部の2年目、2013年2月の第67回定期中央委が採択した活動方針で、3大運動の一つに「韓日友好促進」を掲げた。民団にとって韓日友好促進は、あえて強調するまでもない創団以来の日常的な基本課業だ。それを主要運動に設定して今年で3年目になる。しかも今年は、韓日友好・共生促進という題目で筆頭に位置づけた。「まるで、韓日会談の妥結以前にもどったかのようだ」と受けとめた団員もいる。
修好50年を強く意識
B 民団は国交50年を強く意識してきたからね。歴史認識をめぐる対立があらわになり、両国が決定的に背中合わせになりかねない。そんな歴史的節目を迎える前に、関係を修復させたいという意欲、言い換えれば、危機感が普通ではないということだ。
C 2013年8月に、呉団長ら民団代表団が本国要路を訪問し、大統領、外交部長官、国会議長、国会外交統一委員長、韓日議連会長らと面談した。それぞれ忌憚のない意見交換の場で、代表団がもっとも強調したのは韓日関係の早期改善の必要性とヘイトスピーチの危険性だった。かなりインパクトを与えたはずだ。各要路からは韓日の懸け橋として、在日同胞の生活を守る求心体として、民団への期待感には真剣なものがあった。今年もなるべく早い時期に、要路を訪問したいとしている。
D 民団は韓日議連、日韓議連の有力者への働きかけをはじめ、韓日両国の与党重鎮や政府高官との接触も水面下で準備した。高度なレベルでもずい分動いたと思う。2013年11月に東京で、韓日・日韓議連の合同総会が2年ぶりに開催され、具体的なプログラムを掲げて交流・協力の拡大を確認したが、民団はそこにも少なからず貢献している。
B 韓日関係が良好だからといって同胞の実生活に必ずしも助けになるわけではない。逆に、険悪化すれば経済的にも精神的にも大きな打撃を受ける。同胞経営の飲食店が苦しんでいるのは、消費税率の引き上げだけが要因ではない。社会の空気も影響している。
追悼施設まで標的に
C 呉執行部は支部巡回で多くの団員と対話するなかで、「精神的にまいっている」と聞かされたことも多い。お子さんが勤めている一流大手企業でも、社員の間で「自分たちが汗水垂らして払った税金を、なぜ、在日の生活保護に回さねばならないのか」といった声が出るそうだ。いわゆるエリート層にもレイシストやネトウヨの虚偽扇動が浸透している。
D ヘイトスピーチと一体の歴史修正主義についても、深刻さが増している。これは改ざん主義と称すべきで、教科書の記述ばかりか植民地期に犠牲となった同胞を追悼・慰霊する各地の施設も標的になっている。「虐殺」「強制連行」「強制労働」の文言を削除しろとか、施設そのものを撤去しろとか。「お互いの人権を尊重し、差別のない思いやりにあふれた明るい社会」をめざす長崎市でも、「原爆韓国人犠牲者慰霊碑」の建立が妨害され、行政も及び腰になっている印象だ。
「新時代」への陣痛期
A 韓日間には、関係が比較的に良好な時代でも独島領有や歴史認識の問題で対立感情が間欠的に噴き出していた。国交正常化以来で最悪と言われる現状は、両国関係が水平化したことでお互いへの「遠慮」がなくなったこと、中国の急速な台頭によって東アジアの力学が大きく変化しつつあること、この二つが連動する構造的な不安定さからくると分析されている。いわば新時代への陣痛期にあるわけで、抜本的な関係修復には時間がかかるかもしれない。だが、歴史修正主義を後退させ、ヘイトスピーチを根絶するにおいて猶予は許されない。日本の市民団体と国際世論と連携して総力を結集することになる。
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傍観できない国論分裂
健全な歴史観今こそ…葛藤と消耗 在日社会にも打撃
A 2項(光復70周年は健全な歴史観共有の場)、3項(国政参与、祖国統一課業)、4項(平昌冬季五輪成功)は、互いのつながりが深いのでまとめて論議していいと思う。
B 決議文の2項が言う「内外の国民・同胞が健全な歴史観を共有する」課題は、国家運営の基本にかかわる最重要テーマだ。韓国では北韓・従北勢力による歴史歪曲の影響がすさまじく、政治的な理念葛藤の震源になってきた。それが国力伸張を阻み、対北・統一政策や対日政策の手足も縛りつけている。2大国政選挙の成り行きによっては平昌冬季五輪大会だって影響を受けかねない。そうでなくとも、大会準備の遅れが指摘されている。政治的な日程と平昌冬季五輪の日程のかみ合わせも悩ましいところだ。
C 平昌大会の開幕式は2月9日、閉幕式は同25日の予定だ。開幕宣言は同24日までが任期の朴槿恵大統領が行う予定だが、特段の調整がなければ閉幕式と新大統領の就任式が重なる。これ自体はまだいいとしても、国会議員選挙(16年4月)で与野党の力関係がどうなり、それが大統領選挙(17年12月)にどんな影響を与えていくのか。政治的対立が熾烈になり、大統領選挙が終わっても後遺症が長引いて国政が不安定なまま、大会を迎えることになりかねない。
平昌五輪にも貢献
D 民団は100億円を優に上回る誠金を集め、88ソウル五輪大会の成功に貢献した。韓日国交正常化の前年、1964年の東京五輪に際しては、韓日間で実質上の離散状態にあった家族親戚の訪日招請事業を中心に、大規模な後援事業を展開している。札幌(1972年)・長野(1998年)の冬季五輪でも韓国選手団や応援団の受け入れ、組織的応援や各種支援に最善を尽くした。平昌大会に向けても後援会を組織し、自治体や友好団体と協力して大規模な参観団を送り込みたいところだ。
B そうなるためにも、大会成功へ韓国が一丸になって欲しいとの願いには切実なものがある。民団は札幌・長野の両大会を成功させた自治体、競技団体などと連携して、平昌大会の運営や双方の転地訓練を通じた競技力向上にも寄与できる。
A 大会決議文が3年後の平昌大会の成功に万全を期すよう求めたのは、今後3年間の韓国の在り方を象徴することになるからだ。たとえば、ソウル五輪の前年、大韓航空機爆破事件を引き起こした北韓が平昌大会を前に、核実験や弾道ミサイルの発射など軍事挑発をこれ見よがしに行う可能性は排除できない。これを完全封鎖するには、南北関係の改善が望ましいのは言うまでもないが、それがたやすく期待できない以上、米・中・日・ロをはじめとする国際社会の協力が不可欠だ。それらには、政治的対立などいかなる障害も乗り越えて大会を成功させようとする、強い国民的意思の形成が大前提になる。
C そのカギになるのが「健全な歴史観の共有」なのだろうが、前途は多難と見るほかない。つい最近も野党の重鎮の一人が建国の功労者・李承晩大統領、産業化の立役者・朴正熙大統領を「歴史の加害者」と呼び、はなはだしくはヒトラーになぞらえた。そうかと思えば、釜山市教育庁が指定した児童・生徒向けの推薦図書『10代と語る韓国戦争』に、金日成を賛美して李承晩をけなすばかりか、「韓国政府はソウル市民に参戦を強要したが、朝鮮人民軍は食糧事情を調べ、飢えた市民に食糧を配った」などの記述があった。怒りを通り越して情けなくなる。
D 北韓と従北勢力は、北韓を抗日独立運動の主体だった統一勢力が樹立した<自主の国>=<善の国>と自賛し、返す刀で、韓国を米国と親日・保守反動の反統一勢力がつくった<隷属の国>=<悪の国>と決めつけてきた。そんな虚構が1980年代の前半から流布され、韓国社会のすみずみに根づいてしまった。
B 日本では自国史を美化する歴史修正主義が勢いづいている。これが韓国に対して攻撃的な要素をもつのは言うまでもない。事実、日本の右派=歴史修正主義勢力は、韓国との<歴史戦争>に勝つと豪語している。その韓国では、自国史を侮蔑する歪曲史観がはびこったままだ。この二つは敵対的でありながらも、韓国を貶めようとすることでは共犯関係にあると言っていい。
C 決議文の前文に「韓日国交正常化50周年、民族分断をともなった光復から70年の今年、歴史認識をめぐる確執が韓日間、南北間でともに激化しかねず、韓国は(中略)経済振興に全力を尽くせないまま、政治的葛藤を増幅させかねない」とある。これは、韓国が歴史認識で挟み撃ちに合う懸念を示したものだ。
D 6・25韓国戦争など分断にともなう筆舌に尽くせない困難を克服し、産業化と民主化を自力で成し遂げた国、同情と侮りの対象から称賛と尊敬を受けるまでになった国、それが韓国だ。現在の韓国があるのは、3・1独立運動の理念を体現した臨時政府の法統を継承し、国家的体制づくりで先行する北韓から民族を守るために、自由・民主主義と市場経済の原則に立って建国したからにほかならない。こうした歴史観がなければ、祖国統一も韓日関係の成熟化も困難だ。
地道に旅券所持促進
B 決議文の3項が言う国政選挙や統一課業への参与が、そうした歴史観に基づくものであることは強調するまでもない。民団にはその一方で、地道な努力も必要だ。国政選挙にはより多くの同胞を参加させたい。そのためには選挙人登録者を増やさねばならない。それは、旅券所持者が最大化してこそ可能になる。今年度の活動方針に「旅券所持促進」を明記したのはそのためだ。祖国・故郷とつながることにもなる。
C 歴史観については決議文の前文に「我々は、3・1独立運動の先駆けとなった2・8独立運動宣言発布、6・25韓国戦争時の義勇軍参戦、世界に誇る経済的躍進への献身など、韓国とともに歩んだ在日同胞の歴史を想起し」とある。私たちはこの精神と伝統を発展的に継承しながら、国政と祖国統一事業の一翼を担っていくという決意の表明だ。
創団70周年成功期す
A 決議文は最後に、創団70周年の成功を期した。創団の節目事業としては20年ぶりになる。60周年事業が5・17事態で流れたからだ。この事態は明らかに、韓国内の理念葛藤が民団に持ち込まれた結果だった。私たちにも歴史の傷がある。民団が二度とそのような事態に陥らず、韓国が統一主導国家として国力を伸張させていくためにも、多様な国政参与を通じて、健全な歴史観の確立に寄与していく必要がある。決議文には、将来を「大きく左右」とあるが、「浮沈にかかわる」との覚悟が求められているといってもいい。
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中央大会決議文
第53回定期中央大会に結集した我々は、当面の重大事案を展望し、今後3年が在日同胞と本団の将来を大きく左右する正念場になる、との認識を共有した。
韓日国交正常化50周年、民族分断をともなった光復から70年の今年、歴史認識をめぐる確執が韓日間、南北間でともに激化しかねず、韓国はまた、2016年国会議員選挙・2017年大統領選挙の過程で、経済振興に全力を尽くせないまま、政治的葛藤を増幅させかねない。
我々は、2018年初頭の政権交代と平昌冬季五輪大会に向け、韓国の政治的安定と国力充実は言うまでもなく、韓日関係の早期修復を軸とした東アジアの平和と安定の増進を心から切望する。また、在日同胞の生活を守る本団の基本使命の重要性を再確認し、組織力量の強化に不断の努力を傾注する。
我々は、3・1独立運動の先駆けとなった2・8独立宣言発布、6・25韓国戦争時の義勇軍参戦、世界に誇る経済的躍進への献身など、韓国とともに歩んだ在日同胞の歴史を想起し、本団がその指導母体として70年の実績を有することを自負しつつ、次のように決議する。
一、韓日両国政府に対し、国交正常化50周年を機にすみやかに関係を正常化させ、両国国民と国際社会の期待に応えるよう求める。我々は、懸け橋となって友好増進に貢献する一方、日本における歴史修正主義の動きに警鐘を鳴らし、在日同胞の人権を脅かすヘイトスピーチの根絶に全力を注ぐ。
一、光復70周年は内外の国民・同胞が健全な歴史観を共有する場とならねばならない。我々は、韓国を貶め反民族・反統一路線に固執する北韓政権およびその従属勢力による歴史歪曲を断固排撃する。
一、我々は、2大国政選挙に積極参与するにとどまらず、韓国が年内にも制定する統一憲章に呼応し、祖国統一課業の一翼を力強く担う。
一、平昌冬季五輪大会の成功は、韓国の国際公約にほかならない。我々は、官民が国の威信をかけ準備に万全を期すことを願う一方、88年ソウル大会など五輪後援事業の経験を生かし、総力を傾注する。
一、本団は、指導幹部の第2世代から第3・第4世代への移行期に直面している。我々は、中堅幹部力量の開発、次世代育成、在日大統合を支柱に組織を再生しつつ、創団70周年事業を成功させ、新たな出発を期す。
(2015.3.4 民団新聞)