3月は一年のなかでも、もっとも引っ越しの多い月だといいます。みなさんのなかにも、新しい家に引っ越した方がいらっしゃることでしょう。
ところで、引っ越した家はどうですか? 今回紹介する絵本、『マンヒのいえは狭いアパートで暮らしていたマンヒが、ハラボジ、ハルモニの家に引っ越すというお話です。
マンヒは、韓国のむかしながらの暮らしが残る家がたいそう気に入りました。そりゃあそうでしょう。たくさんの部屋があって、しかもアパートでは飼うことのできなかったイヌが、3匹もいるのですもの。そんなうきうきのマンヒが、広い家のなかをひとつひとつ読者に案内していくというつくりになっています。
まずは奥座敷であるアンバン、それから台所、納屋とその上にある、いろんなカメを置くチャンドクテ、そしてかまどがある裏庭、前庭、お札が貼ってある玄関にいって、マンヒ自身の部屋。それからお風呂、屋上のあと、アッパの部屋も紹介しますが、最後は眠ってしまいます。
では、マンヒに代わってわたしが、ひとつだけマンヒよりも詳しく説明してみましょう。玄関を紹介したときにマンヒはつぎのように話します。
「玄関のとびらの上に、頭が3つあるタカのお札を貼ってるでしょ。『いいことがありますように』って、おばあちゃんが貼ったんだ」
絵はかなり小さいのですが、それでもちゃんと「サムドゥメ」とわかるように描かれています。さまざまなタイプのものがありますが、写真のように3つの頭(サムドゥ)を待つ タカ(メ)が、トラの背中に乗っているものが、もっとも一般的でしょう。
勇敢なタカが、災難をしっかりと狩ってくれる。そこに神聖なトラまでいるのだから、これで安心。と、考えたのでしょうね。 このようなお札のことを「三災符籍」といいます。「三災」とは、水、火、風の災難のことで、「符籍」とはお札やお守りを意味します。ともに暮らす家族が災難にあうことなく、しあわせに暮らせますようにと願って貼るのです。
そうそう。わたしがこの絵本で一番気に入っているところを話さなくてはいけませんね。はじめて読んだとき、すぐに、あれっ? どうして絵の一部だけが白黒になっているのかなぁ? と気になりました。
けれども、それがいったい何を意味しているのかをわかるのに、それほど時間はかかりませんでした。何度も読みかえすうちに、絵の白黒の部分は「つぎのページで詳しく紹介する部屋ですよ」と、作者が事前に示してくれていたのです。それがわかったときのうれしかったこと。
絵本のなかには、むかしから韓国の家庭で使われてきた、少し古い家具や道具がいっぱい登場します。それらを通じて、むかしながらの韓国の暮らしを体験することができます。
この絵本は、韓国を代表する絵本作家のひとりであるクォン・ユンドクが、息子のマンヒに読ませるためにつくった、彼女のはじめての絵本でした。発売から20年が過ぎた今も、多くの子どもたちから支持されているロングセラーです。フランスでも発売されているのですよ。
キム・ファン(絵本作家)
(2015.3.18 民団新聞)