みなさんは「トッケビ」をご存知ですか?
韓国のむかし話の定番といえば、トッケビ! といわれるほど、たくさんのお話があるのですよ。
でも、トッケビと聞いても、あまりピンとこないかも知れませんね。トッケビは韓国独自の想像上の生きもの。日本にはいませんからね。日本語で説明するのはかなりむずかしいのですが、あえていうならば、お化け、妖怪、鬼といったところでしょうか?
けれどもトッケビは、死んだ人が化けてでてきたものではありません。木や石などの自然物から生まれてくるともいい、また、日常生活で使われていた古い生活道具などから生まれるともいわれています。その姿はまちまちで、いろいろなものにも化けられるのです。このように日本語でピタリと当てはまるものがないので、そのままトッケビと訳されているのです。
とにかくトッケビは、人間にはない不思議な力を持っています。ですから本来ならば、人びとから恐れられる怖い存在なのですが…ちょっと間が抜けていたり、情にもろかったり、ときには富や力も与えてくれたりもするのです。なのでむしろ、人びとから愛されているのですよ。
さて今回は、トッケビがでてくる数あるお話のなかでも、とりわけ有名な『うしとトッケビ』(原題 )を紹介しましょう。これはむかし話ではありません。近代韓国を代表する作家、イ・サン(李箱)が1937年3月に発表した童話です。
まき売りのトルセは、財産をまるごと投げだして買った大切なウシと暮らしていました。ある日、暗い森のなかを歩いていると、突然、おかしな生きものが飛びでてきました。
トッケビの子です。トッケビは村に遊びにいったところイヌにしっぽをかまれてしまい、傷が治るまで術が使えなくて帰れない。ふた月の間だけウシのお腹のなかに入れてもらえないかと、トルセに必死に頼むのでした。その代わり、ウシの力を今の10倍にすると約束します。
トルセはトッケビの頼みを聞き入れてやります。するとおどろいたことに、ウシの力が本当に10倍も強くなりました。以前にも増して自慢のウシです。
やがて約束のふた月が過ぎました。ウシからでてくる日がきたのです。ところがトッケビの子は太ってしまい、ウシののどからでられません。トッケビがウシのお腹を破れば、ウシは死んでしまいます。果たしてウシは、トッケビは…。 作者のイ・サンは、詩、随筆、小説など、多様なジャンルで優れた作品を書きましたが、27歳という若さで亡くなりました。天才作家と呼ばれるイ・サンが、唯一、子ども向けに書いた童話を絵本化したのが、今回の絵本なのです。
また、絵をつけたハン・ビョンホは、トッケビを描かせたら右にでるものがいないといわれている天才画家です。ふたりの天才が、韓半島の不思議な存在であるトッケビと人間との友情をほのぼのと描きました。
イ・サンの死から40年が経った1977年。その功績が高く評価され、「イ・サン文学賞」が創設されました。この賞は韓国最高の文学賞の一つといわれていて、毎年、受賞作は多くの注目を集めているのです。
キム・ファン(絵本作家)
(2015.5.27 民団新聞)