川遊びにいくのにいい季節です。川にいくのなら、今回紹介する絵本、『かわべのトンイとスニ』を読んでからでかけてほしいものです。そういうと、いろんな川遊びが紹介してある絵本かな? 川で起こる冒険物語かな? と期待させてしまうかもしれませんね。ストーリー自体は、とてもシンプルです。
朝早く、オンマは町へゴマや豆を売りにでかけていきます。妹のスニには色鉛筆、兄のトンイには運動靴を買ってくると約束して。 でも、兄妹はオンマの帰りを待ちきれません。トンイは、オンマを迎えにいこうとだだをこねるスニを連れて、近くの川原にやってきます。スニは大きな鳥の形をした岩に向かって、「今、オンマはどこにいるの?」とたずねます。トンイは鳥の岩の代わりに答えます。スニはまた、小グマの形をした岩に向かって、「オンマはわたしの色鉛筆も買った?」とたずねます。トンイもまた、小グマの岩の代わりに答えるのです。それでもスニのわがままはおさまりません。
トンイは、川原の石で水切りをして見せたり、おんぶをしてあげたりして、一生懸命スニをなだめます。お日さまが山の向こうへ隠れたころ、オンマが川原を歩いてもどってきます。ストーリー自体は、本当にシンプルでしょ。
でも、この絵本の素晴らしいところは、何気ない風景の絵のなかに、もうひとつの絵がこっそりと隠されていて、それを見つけるたのしみがあるところなのです。表紙の絵をよ〜く見てください。タイトルの白い文字の真上にある岩、大きな鳥の形をしているように見えませんか!
このようにストーリーに合わせて、1,大きな鳥2,子グマの顔3,頭に荷物を乗せたオンマ4,妹をおんぶする兄5,炭鉱で働くアッパ6,やさしいオンマの形をした岩が、川原の自然の風景のなかに隠してあるのですよ。
もしも川にいったなら、この絵本のように、何かに見える岩を探してみるのもいいでしょう。
ところで、この絵本の原題を直訳すると、『東江(トンガン)の子どもたち』となります。韓国には、ソウルを流れる漢江をはじめ、錦江、栄山江、洛東江など多くの川がありますが、作者が、わざわざ「東江」と題してこだわったのには、何か理由がありそうですね。
この絵本は、2000年の6月に韓国ででました。ちょうどそのころ、韓国中の視線は江原道の東江に注がれていたのです。
そして韓国史上、はじめての出来事が起こります。市民の力で、ダム建設計画が白紙撤回されたのでした。
この「東江ダム建設反対運動」のシンボルとなったのが、カワウソでした。日本では1979年を最後に確認されていませんが、韓国ではまだ生き残っているのですよ。カワウソを絶滅から救おうという市民たちの声が、東江の自然を守ったのでした。
作者のキム・ジェホンは、東江の自然を守りたいという想いを絵本で表現しました。ダム建設白紙撤回から今年でちょうど15年。今もその想いは、絵本とともに読み継がれています。
この絵本はフランスでも発売され、2004年のスイス・エスパス・アンファン賞を受賞しました。
キム・ファン(絵本作家)