毎日うっとうしい梅雨空が続いていますね。外にでるのもおっくうになりがちです。でも、雨降りも悪いことばかりじゃないなぁと思ってしまう、そんなたのしい絵本があるのです。
今回紹介する絵本は、『ふわふわ くもパン』という、雨の日にピッタリのファンタジー絵本です。
ある朝、目覚めると雨が降っていました。子ネコの兄弟がレインコートを着て外にでてみると、小さな雲が木の枝にひっかかっているではないですか。兄弟は雲を壊さないように、そうっとそうっと抱えてオンマに持っていきます。ちょうど朝食の準備をしていたオンマは、雲を入れたパンを焼きました。
オンマがオーブンを開けると、あら不思議、パンがふわりふわり。子ネコの兄弟がパンを食べると、子ネコたちもふわりふわり。
「そうだ! くもパンを持っていってあげようよ」 兄弟は空を飛んで、朝ごはんを食べずに会社にいってしまったアッパを探します。アッパは、ぎゅうぎゅうづめのバスに乗っていました。アッパもくもパンを食べると……。
この絵本の魅力は、雲が入ったパンを食べて空を飛ぶというユニークな発想にあります。でも、それを表現した「絵」がまた、何ともすばらしいのです。
絵本の作者、ペク・ヒナは、梨花女子大を卒業したあとに渡米し、カリフォルニア芸術大学でキャラクターアニメーションを学びました。彼女はアメリカで得た知識と経験を活かして、独特の立体技法をつくりだします。それを駆使して生み出されたのが、この絵本の「絵」なのです。
たとえば登場人物であるネコたちは、色鉛筆で描いた絵を切り取った顔に、本物の布を使った服を着せています。まるで人形のように立体的に見えますが、実際はただの薄い紙。それを背景となる小さなセツトのなかにうまく配置し、写真に撮りました。
写真絵本というのは、どうしても絵で描かれた絵本と比べて、何か冷たい感じがしてしまうものです。しかしこの絵本の写真は、そのような感じがまったくしません。その秘密はおそらく、キャラクターを紙で作ったところにあるのかも知れませんね。紙が持つあたたかみが活きているのでしょう。
ペク・ヒナはこの絵本の原画で、2005年の「ボローニャ国際絵本原画展」において、今年のイラストレーターに選ばれました。 2004年の発売以来、今も売れ続けている大ベストセラーです。テレビアニメやミュージカルになっただけでなく、多様なキャラクター商品がたくさん発売されています。いわば韓国人ならだれもが知っている「国民的童話」なのです。
ところがその人気は、国内だけに留まりませんでした。絵本はフランス、ドイツ、中国、ノルウェーなど、世界の8カ国でも発売されました。さらにKBSが制作したテレビアニメは、ヨーロッパや中東など、世界の16か国で放映されたのです。韓国の国民的童話は、世界的な人気童話となったのでした。
ネコの兄弟は、雨が降っていても外にでて雲を見つけました。たとえ雨降りでも、外にでると、何かいいことが起こるかもしれませんよ。
キム・ファン(絵本作家)
(2015.6.24 民団新聞)