秋の夜長、趣味の縫い物をたのしんでおられる方も多いことでしょう。
今回は、韓国の伝統的な裁縫道具たちが登場する絵本、『あかてぬぐいのおくさんと7人のなかま』を紹介しましょう。
この絵本のもとになっているのは朝鮮王朝後期の作品と考えられている「閨中七友争論記」という作者不明のお話です。
「閨中」とは、女性の生活の部屋であるアンバンのこと。アンバンは閨房(キュバン)とも呼ばれました。その部屋のなかにいる「七友」とはつまり、裁縫をするのに欠かせない7つの裁縫道具のことで、これらがお互いに争うので「争論記」なのです。
絵本をつくったイ・ヨンギョンは、当時の女性の生活や心がわかる重要な資料である「閨中七友争論記」を、子どもたちでも読めるようにやさしく脚色し、まるで民画を見ているような味わい深い絵をつけて絵本にしました。タイトルも、親しみやすいように工夫されているでしょ。
では、内容です。
むかし、頭に赤い手ぬぐいをかぶっている奥さんがいて、奥さんは縫い物がとても上手でした。ところがある日、奥さんがうたた寝をしていると、物差し夫人がみんなを見下ろしていいます。
「わたしたちのなかで一番大事なのは、このわたくしですよ!」
それを聞いたハサミお嬢さん、針娘、糸姉さんが自分こそ一番大事と主張するのです。
だまって聞いていた指ぬきばあちゃんがさりげなく加わります。
「奥さんが指先にケガをしないようにお守りするのがわたしの役目さ」。するとまた、我慢していたのしごて乙女とひのし姉やがいいます。
「でこぼこの針目にのしごてをあててうつくしく仕上げるのは、いったいだれでしょう?」
「しわが寄ったり折り目がついたところをわたしがきれいに伸ばします。最後の仕上げこそ一番大切」
7つの道具たちのいい争う声で目を覚ました奥さんは、こらえきれなくなり、大きな声でいいました。
「一番えらいのはこのわたしだよ。わたしの腕がいいから、お前たちも自分の役目が果たせるんじゃないか。わかったかい!」
そしてまた、寝てしまったのです。
奥さんに怒られて、7つの道具たちはしょんぼりしました。自分なんか、どうでもいいものだったんだと思うと悲しくなってしまったのです。
すると、眠っている奥さんが大粒の涙を流しはじめたではないですか!
「こわい夢でも見ているのかしら?」
「かわいそうだわ。おこしてあげましょう」
奥さんは、道具たちがいなくなる夢を見て泣いていたのです。目が覚めた奥さんは道具たちに……。
この絵本は、韓国の小学校の教科書に採用されていることもあって、韓国の子どもたちみなが知っています。また、家族みんなでたのしめるミュージカルにもなって上演されました。
それぞれ役割はみんなちがうけれど、どれひとつ大切でないものなどない‐。そんなことを気づかせくれる名作は、学校での読み聞かせに最適でしょう。
キム・ファン(絵本作家)
(2015.11.25 民団新聞)