今年はいい年でしたか?
わたしは自分の夢がひとつ実現した、いい年でした。今から10年前の2005年の9月。兵庫県豊岡市でコウノトリの放鳥式典がありました。わたしは、一度絶滅したコウノトリを自然に帰すという、世界ではじめて行われるイベントに招かれた韓国の研究者の通訳として、この歴史的な瞬間に立ち会いました。
そのとき、大空に帰っていったコウノトリを見ながら、心の中で強く思ったことがありました。
いつか、祖国の大空を舞うコウノトリを見たい!
そして10年の月日が流れた今年の9月。今度は、忠清南道禮山郡で行われた放鳥式典に招かれた日本の方たちの通訳として、参加することができたのです。
ところで、その放鳥式典に先立つ記念公演で、もうひとつ貴重な体験をすることができました。何と、生でパンソリを見るという幸運に恵まれたのでした。
パンソリは韓国の伝統的な民俗芸能で、03年にユネスコの無形文化遺産に登録されました。もちろん、わたしもパンソリのことは知っていて、テレビや映画で見たことがありました。でも、目の前で演じられるパンソリを見たのは生まれてはじめてでしたので、とても興奮しました。
通訳の仕事です。パンソリのことをすぐに日本の方たちに解説しなくてはいけません。ですが、シン・ヨンヒ名唱の熱演に魅了されてしまい、仕事を忘れてきき入ってしまいました。
このとき、演じられたのは「興夫歌(フンブガ)」の一節。これは「フンブとノルブ」という、ツバメが登場する兄弟愛を描いた韓国のむかし話です。
シン名唱が「アニリ(語り)」の部分で、
「おいおい、どうしてツバメなのじゃ? 今日はコウノトリのお祝いをする、めでたい席ではないか!」というと、参加者たちはどっと笑いました。
18世紀ごろに原型ができたと考えられているパンソリは、かつては12作品ほどがありました。しかし今日に完全な形で残っているのは、先の「興夫歌」のほかに、親孝行を描いた「沈清歌(シムチョンガ)」、男女の愛を描いた「春香歌(チュニャンガ)」、三国志の名場面である「赤壁歌(チョクピョクカ)」と、「ウサギとカメ」という韓国のむかし話である「水宮歌(スグンガ)」の5曲だけです。
この5曲のなかから、コウノトリの放鳥式典に最もふさわしいものとして、同じ鳥の仲間であるツバメが登場する「興夫歌」が選ばれたのでしょう。
さて、今回紹介する絵本は、5曲のパンソリのなかのひとつである『水宮歌』(原題 )です。
むかし、海に住む竜王が病気になってなげいていたところ、天から神仙がおりてきて「ウサギの肝を食すればよくなるだろう」と教えます。竜王は、カメにウサギを連れてこいと命じるのでした。言葉巧みなカメにだまされたウサギは、竜宮へやってきたとたんに捕らえられてしまいます。
ところがウサギは「肝は木にぶらさげてきて、腹にはない」と答えます。そして悠々とカメの背中に乗って地上にもどるのでした。
この絵本には、小学6年生の男の子が唱者を務めたCDがついています。大人向けの絵本です。
キム・ファン(絵本作家)
(2015.12.23 民団新聞)